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スクリーンショット 2017-05-12 午後6.52.06

「This is my love letter to the Bitcoin Blockchain.」

一週間前、RedditにおいてSaveTheChainを名乗る人物が「ラブレター」と称し、273BTC(現在の時価で6000万円相当)の手数料を支払う署名済みトランザクションを作成し、スレッドに公開したことが話題を呼んだ。(reddit

このトランザクションは、ちょうど1MBのサイズであり、273.99971476 BTCの手数料が含まれている。そして99,940個の無価値で、誰でも次の取引に使うことができる”Anyone-can-spend Output”(かなり特殊な形式であり、通常は用いられない)が含まれている。SaveTheChainによれば、有志がこのアウトプットを使って手数料を追加していくことで、マイナーへのプレゼントがどんどん増えていくだろうということ。

つまり、マイナーはこのトランザクションを新しく掘り当てたブロックに取り込めば、ほんの1ブロックだけで少なくとも6000万円相当のビットコインを受取ることができるのだ。電気代とビットコインの価格で裁定取引を行うマイナーにとって、これほど嬉しいプレゼントはない。

(「プレゼント」の総額をトラッキングして表示するサイトも現れている→リンク

問題点

では、このラブレターのポイントは何なのか。

ひとつは、この「プレゼント」を取り込むために、ブロックサイズを引き上げる必要があるということだ。1MBのブロックに、1MBのトランザクションは入らない。BTCが新しく生成されるコインベース取引を含めると、1MBを越えてしまうためだ。端的に言えば、Bitcoin Unlimitedを採用するインセンティブとして、この「SaveTheChain」が用意されているのである。このキャンペーンのために用意されている歌は、このとおり。

Save the Chain!

The Chain, she cries.
She cries out in pain,
her growth stymied,
her potential slain.

We must save the Chain!

This Chain is worth fighting for.
This Chain can bring justice.
This Chain can end war.

Take this transaction,
my precious young Chain.
Use this transaction:
break free from your chain.

仮想通貨の世界では往々にして、このようなプロパガンダじみた歌がよく作られる。

次に、このトランザクションを取り込んだマイナーがいたとして、誰がそれを認めるか、という問題がある。マイナーの心理としては、他のマイナーがブロックサイズを引き上げることで273BTCの手数料を得ることに成功したとしても、それを認めず、自身が採掘したブロックでプレゼントを取り込みたいと考えるはずだ。

ここで考えられるケースは以下のとおりだ:

  1. 利己的なマイナーが当該トランザクションが含まれる自分のチェーンだけを伸ばし分岐が発散するリスク
  2. 先んじて利益を得ようとするマイナーにより突発的なハードフォークが起こるリスク
  3. マイナーが一箇所のプールに集まり51%攻撃が発生するリスク

利己的な行動による過度な分岐のリスク

あるマイナーは「プレゼント」を取り込むが、他のマイナーがそれを無視する。そして他のマイナーは自分のブロックに「プレゼント」を取り込み、自分のブロックチェーンを伸ばしていく。プルーフオブワークによって利己的になることが命運付けられているマイナーがこうした行動を取る可能性は、これまでのASICBoost騒動やAntbleed事件、香港アグリーメントの例を鑑みれば充分に想定できよう。

突発的なハードフォークのリスク

たとえば関係者間でブロックサイズを引き上げることに合意し、対立が一切発生しない理想的な計画的ハードフォークが50万ブロック目にスケジュールされたとしよう。執筆時点でのビットコインのブロック高は466000なので、ちょうど2018年の年明けにハードフォークが行われると仮定する。

現時点において「大きなブロック」の支持者はBitcoin Unlimited(BU)をサポートしているため、ハードフォーク決行の日に向けて事前にEB(Excessive Block Size)とAD(Acceptance Depth)を設定している。それぞれの設定値はBUクライアントのパラメータで、EBは「受け入れ可能ブロックサイズ(EB)」を意味し、ADは「受け入れサイズを越えたブロックを受けれるまでの承認回数」を意味している。したがってBUクライアントを利用するマイナー(以下、BUマイナー)は、生成サイズの上限を1MBに維持した上で、50万ブロックからnMBを採掘する(おそらく、2MB前後のブロックを採掘するだろう)というプログラムがあらかじめ組まれている可能性が高い。

しかしながら、この方式を採用した場合はEBとADが抜け駆けのために悪用される恐れがある。

すなわち、EBやADはBUマイナーがブロックを採掘した際、コインベース・スクリプトに記述されるため、抜け駆けしたいBUマイナー(プール)は計算力をかき集めることで、ADの最頻値に至るまでブロックを掘り続ければ、突発的なハードフォークを強行できる。「Save The Chain」キャンペーンは、それをする動機が充分にあるだろう。

51%攻撃のリスク

もし上記したような事態にならずとも、ハードフォークのスケジュールが迫るにつれ、特定のマイニングプールにハッシュレートが集中する可能性は充分に考えうる。当該ブロックを採掘出来る可能性が、すなわち273BTCのプレゼントが詰まったトランザクションをブロックに収め、手数料として受取ることが出来る可能性と等しいからだ。

ここで、どこかのマイニングプールがプレゼントトランザクションの受け入れと利益の比例分配を宣言すれば、普段は他のプールで採掘しているマイナーも、その瞬間だけはプールを移動してマイニングを行うだろう。もちろん、すべてのマイニングプールに分散して採掘に参加する、という戦略も充分に考えられる。しかし、電気代とビットコインの価格とで裁定取引を行うことを生業とするマイナーならば、投機的な行動をとる可能性が高い。

マイニングプールに51%攻撃の意思があろうがなかろうが、ハッシュレートが過半数を上回った時点でリスクは発生する。51%攻撃は、一度生成されたブロックを故意に分岐させたブロックで上書きすることによって、特定のトランザクションをなかったことにすることができる。実際に51%攻撃が悪用された事例はないが、「プレゼント」目的のマイナーを集めることで攻撃を実行できる可能性が高まるだろう。

とはいえ、賢いマイナーであれば、こうしたリスクが価格の下落要因になるということをよく理解している。価格が下落するくらいなら、このトランザクションを永久に無視して取り込まないことを選択するのが合理的な判断である。一方、スケーラビリティをめぐるBU vs Coreの対立は激化の一途を辿っており、当事者や関係者の間では冷静さを欠いた論争も多々見られているのが現状だ。

5月10日には「BUIP055: Increase the Block Size Limit at a Fixed Block Height」(ブロック高を決めてブロックサイズを引き上げる)が提案されており、このままBUサポーターが増加すれば、10月頃には「計画的なハードフォーク」が実施されることになるだろう。BUをサポートするシグナルは直近で44%まで上昇しており、分裂する可能性は依然として余談を許さない状況が続いている。


reddit

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この記事を書いた人

ざきやま(山崎大輔)
ざきやま(山崎大輔)from Cryptocurrency world
ビットコイン専門記者 BTCN編集長
ブロックチェインの可能性を、知的財産の保護やゲーミングカルチャーへ応用できないかと考えてます。
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