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先々週に、東京ビットコイン会議の共同オーガナイザーであるKen Shishidoさんの手引きのもと、北京に本社を置く世界最大手マイニングファーム、Bitmain(ビットメイン)のオフィスに訪問することが叶った。旅の目的は、ビットコインの分裂危機に対するマイナーの論理を垣間見ることだ。日本にいては感じ取れないことも、現地に行けば感じ取れると思い北京入りを即決した。

また、先週には最大のUASF支持者の一人であるサムソン・モウ氏と数々のハードフォーク研究を公開しているコア開発者ジョンソン・ロウ氏が来日し、日本に滞在中のコア開発者ニコラ・ドリエ氏を交えたミーティングも行った。

最大手マイナー、コア開発者との邂逅を終えてわかったのは、8月1日に本当に分岐が起こるのかと思うほど、当事者たちは冷静だということだった。本稿では、Bitmainをはじめとするマイナーの行動心理と、スケーラビリティ問題の本質を、北京から見えたビットコインの風景を交えて切り出してみたい。

注意1:この記事は、議論のストーリーにフォーカスしています。8月1日の予想に関心がある方は東さんの記事をお読み下さい。
注意2:尚、4項までは特段目新しいことには触れていないため、時間を節約したい方は5項までスキップすることを推奨します。

目次:
0. はじめに
1. ポジショントーク
2. 問題の定義
3. ビットコイン開発における中軸思想
4. ハードフォークリサーチ
5. マイナーの主張
6. Blockstream政治の批判
7. コアの思惑は
8. 優しい独裁者の不在
9. Segwit2xの問題点
10. 8月1日に向けて

はじめに

ビットコインにはすべての参加者が従わなければならない、コンセンサス層と呼ばれるプロトコル・レイヤーがある。マイナーやユーザー、その他の事業者は、コンセンサス層のルールに従い「原則」を共有することで、世界規模の分散型通貨ネットワークを利用することができる。今やビットコインの時価総額は4.5兆円にまで成長したが、これは、マイナーや事業者を含むすべての利用者がビットコインのコンセンサス層を信頼し、たった1つの世界規模ネットワークを維持してきたからに他ならない。

8月1日に予期されるビットコインの分岐は、この前提を覆す。開発者やマイナー、事業者グループの一部は、それぞれの正義と思想に基づきコンセンサス層を分かつことを決意。すなわちそれがUASF(BIP148)とNYA(Segwit2x)、UAHF(BAHF)の対立であり、「ビットコインが分裂する」と騒がれる理由である。

UASFは、Segwitを支持しないマイナーのブロックを受け付けない変更を行うことでブロックチェーンの分岐を誘発し、経済合理性からSegwitのアクティベーションを促す。NYAは、3ヶ月後のブロックサイズの引き上げるためのハードフォークを前提にSegwitのアクティベーションを計画する。UAHFは、NYAのクライアントが8月1日までにリリースされずUASFが実行されると、最大手マイナーであるBitmainが独自のプライベート環境で最低72時間以上ブロックを採掘し、Bitmainの判断でネットワークに公開し、故意にハードフォークを起こす。

ブロックサイズやブロック発見難易度の調整機構、ブロックの発見に係る計算アルゴリズム(コンセンサス・アルゴリズム)、ブロックのバリデーションロジックなどはまさにコンセンサス層の領分である。これらに変更を加えようとすれば、入念な移行計画を練り、参加者全員が合意しない限り分岐を免れることはない(しかし、それでも一部は取り残されるだろう)。

今回の分裂騒動には不可解な点があまりにも多い。お互いコンセンサス層に手を加え、敵対的な「分岐」を望むのは何故だろうか? 一部のコア開発者がUASFを支持しているのは何故だろうか。そして率直な疑問として、なぜNYAやUAHFは既に検証されたSegwitのアクティベーションを拒んでまで、ハードフォークを通そうとするのだろうか。

ポジショントーク

一連の騒動は、昨年「The DAO」を巡ってハードフォークを敢行したイーサリアムの事件を思い起こす。イーサリアムはThe DAOの尻拭いをしたことで反発を生み、ETH(Ethereum)とETC(Ethereum Classic)に分裂したからだ。しかしイーサリアムのそれは、判断の良し悪しはどうあれ、イーサリアム上の分散型アプリケーション(Dapps)のバグによって意図せず失われた資産を取り戻すためにフォークが実行されたという経緯がある。一方のビットコインはどうだろうか。ネットワーク・トラフィックが限界に到達するという問題に直面したものの、誰の資産が失われたわけでもない。ユーザーや事業者からしてみれば迷惑な話だが、わざわざ分裂する程の事件に直面しているようには思えないのだ。

筆者は実のところ一連の対立のどちらにポジションを持っているわけでもなく、これからもポジションを持つつもりがないが、記事の公平性を期すためにも自身のスタンスを明記しておこうと思う。

まず、私はハードフォークを完全に否定しておらず、Lightning Networkのような技術が実現したとしても、ブロックサイズの上限を引き上げる必要があるだろうと予想している。そしてUASFのような提案に関しては、ブロックチェーンの分岐を誘発することから、あまりにもリスクが高いと考えている。

しかし、ハードフォーク・クライアントとして知られるBitcoin Unlimited(BU)のようなクライアントは検証が甘く、よくバグを起こしてソフトウェアをクラッシュさせるため、到底本番ネットワークでの実用に耐えられないと見ている。現に、3月の「assert(0)」事件により、BUノードの過半数が一斉クラッシュに見舞われた。率直に言って、厳密なコードレビューとテストを経たクライアントでなければ、そこで動くプロトコルを信頼することができない。同様に、Segwit2xのクライアントに関しても、過密なスケジュールの中でハードフォークを含めた入念なレビューやテストが可能だとは思えず、何らかの問題が発生するのではないかと危惧している。実際、Segwit2xはスケジュールに遅れが生じベータ版のまま正式リリースが出来ておらず、(開発者はベータ版でも問題ないと主張するが…)見通しはあまり明るくない。

このような背景を鑑みるとどうにも、単にSegwitのアクティベート閾値を下げるBIP91や、Segwitの猶予期間を伸ばすBIP149のような提案以外を支持する気になれないのだ。したがって、あえて自分のスタンスを言葉にするならば「保守派」と認めることはできるだろう。

問題の定義

一連の議論についてあらかじめ問題を定義するならば、これは「ハードフォーク」に関わる各陣営の意見相違にまつわる意思決定の問題である。「ビッグブロッカー」(大きいブロック支持者)や「スモールブロッカー」(小さいブロック支持者)、または「オンチェーン・スケーリング」、「オフチェーン・スケーリング」として派閥が分類されることもある。

たとえば前者の「ビッグブロッカー」は、ハードフォークを行いブロックサイズを大きくすることで、ブロックチェーン上で処理できる取引数を物理的に増加させスケーラビリティを担保しようとする考えだ。ネットワークのスループットをブロックチェーンだけで引き上げようとするアイデアから、オンチェーン・スケーリングとも呼ばれている。オンチェーン・スケーリングには、最低でも必ず一度以上のハードフォークがつきまとうことから、ビッグブロッカーはハードフォークを支持していると捉えることができる。

また、後者の「スモールブロッカー」は、ネットワーク帯域やストレージサイズの問題からオンチェーンの限界を危惧し「Lightning Network」(LN)や「Sidechain」、「TumbleBit」、「Drivechain」のようなセカンドレイヤー技術を用いてスケーラビリティを担保しようとしている。可能な限りブロックチェーンに変更を加えず、外部の分散型ネットワークで毎秒100万取引規模を処理するための方法を模索していることから、オフチェーン・スケーリングと呼ばれている。スモールブロッカーは当面の間、ブロックサイズを引き上げる必要性も感じていないとしていることから、ハードフォークを否定していると考えられる。

したがって究極的には、対立する二派は「ハードフォークを肯定するか、しないか」でしかない。であれば、何故、後者の人々がハードフォークを頑なに否定するのかも明らかにしておかねばなるまい。

ビットコイン開発における中軸思想

ビットコイン・コアの開発の中軸にあるのは、ネットワークの安全性を徹底的に追求したコードレビュー・プロセスと、徹底したリスク回避の嗜好性だ。ビットコインの生命活動を恒久的なものにすることを至上命題とする彼らの開発プロセスにおいて、あらゆる「安全性が確認されていない変更」は好まれない。

いかなる提案であれ、提案段階ではほとんど意味のある検討は行われず、コードが書かれて初めてピアレビューの土台に上がる。すべてのコードは多数のコントリビューターによって入念なレビューが行われ、オープンな場で議論されるのが原則だ。あらゆるオープンソースプロジェクトと同様にコードが共通の言語であり、どのような立場からの主張であれ、ビジネス要件や規制要件よりもコードの安全性が優先される。とりわけ、検証が極めて難しい(むしろ出来ないと言ってもいいが)「ハードフォーク」に関しては、後戻りが出来ないことから忌避される傾向にある。

ここでソフトフォークとハードフォークの違いに触れておくと、ソフトフォークは「後戻りができる変更」であり、ハードフォークは「後戻りができない変更」である。ソフトフォークは大抵、ルールを制限する方向に働き、ハードフォークはルールを拡張する方向に働く。つまりソフトフォークはUASFのようにブロックチェーンを分岐させることもできるが、後から「やっぱりやめた」と当初のルールに戻ることもできる。ハードフォークの場合、例えば2MBにブロックを拡張すると、後から1MBに戻すこともできるのだが、プロトコル上は2MBまでのブロックを発行できる状態が維持されることになる。

ビットコインの開発に関して言えば、イーサリアムのようにハードフォークを前提においた開発方針を採用し、積極的にハードフォークを取り入れてプロトコルを進化させている開発方針と対比させると、まったく正反対だといえなくもない。ビットコインが通貨として、イーサリアムが分散型コンピューティングシステムとして成長することを志向している点が、2つのプロジェクトに根本的な違いを生んでいるのだろう。

また、敢えてビットコインの開発を批判することを試みるなら、2016年にマイク・ハーンが残した「ビットコインはもはや、Too big to failに陥っている」という言葉は、まさに現状の確執と分裂危機を生んだ原因であると捉えることもできる。あまりにも大きくドミナンスなネットワークになってしまったがゆえに、ハードフォークの実行に踏み出せないということも充分に考えられる。

もっとも、人間の人生よりも長い歴史を刻む可能性にまで言及するならば、ビットコインの生涯生命の中でハードフォークを極力減らし、またコンセンサス層の変更を極力行わない方がいいというのは、リスク回避の観点から完全に正しい。ソフトフォークを含め、プロトコルによって得られる合意(マシン・コンセンサス)をドラスティックな変更によって崩してしまえば、ビットコインのネットワークはたちまち崩壊の可能性に晒される。

ハードフォーク・リサーチ

少し横道にそれて、これまでどのような経緯でハードフォークを含めスケーラビリティに関する議論が行われてきたかについても触れておきたい。と言っても、すべての歴史を解説するとそれだけで1万字級の記事になってしまうため、ここでは主にハードフォークに関する研究(ハードフォーク・リサーチ)に焦点を当てる。歴史を知りたい方は、以前作成したスケーラビリティ議論のタイムラインで7割がたをカバーしているので、そちらの記事を参照されたい。

参考: 【図解】Bitcoin Scalabilityに関する議論のタイムライン ~Bitcoin XTからUnlimited、Segwit2xまで~

ハードフォークにあたり問題になりそうなのは、まずリプレイ攻撃をいかに防ぐかという点だ。リプレイ攻撃とは、2つの分岐したブロックチェーンの双方がブロックのバリデーションロジックのみ変更し、ウォレットが2つのチェーンA、チェーンBに対し、本来チェーンAに対してのみ送信したかったトランザクションが、チェーンBに対しても配信されてしまうことで起こる問題だ。ネットワークが分裂するとフルノードを意識しない軽量クライアント(light client)を利用する一般ユーザーと事業者にも予期しない資産のロスを発生させるリスクがある。

リプレイ攻撃の対策をしないということは、ある種1つのチェーンしか認めないということでもあり潔いとすら思うものの、既にイーサリアムの前例もあり、今後ハードフォークを行う場合はリプレイ攻撃対策(Anti-Transaction Replay)を実装する必要がある。

また、「Bitcoin Hard fork Research」では、ハッシュレートの指数的増加に対応するためのブロックヘッダー拡張、マージマイニング、当初案への回帰としてのSegwitコミットメントのブロックヘッダーへの格納(本来、Segwitはハードフォークで実現する予定だった)、ハードフォーク及びソフトフォークデプロイのための専用フラグ領域の確保、警告システム、軽量クライアントの保護、及びジョンソン・ロウ氏によるブロックサイズの増加、ソフトフォークによる柔軟なブロックヘッダー変更を含めたSpoonnetなど様々な提案が行われている。単に一時的な問題を解決するために2MBのハードフォークを実行するくらいなら、一気にやってしまった方がいいだろうとする声も多い。

残念なことに、現状Segwit2xのクライアントにリプレイ攻撃対策を含め他の提案が盛り込まれている形跡はなく、彼らのクライアントが計画的に開発されているとは言えない。

ビッグブロックを支持する理由

随分と前置きが長くなってしまったが、結局のところ、Bitmainを始めとするマイナーとハードフォーク推進派の心理は実にシンプルだ。彼らは、オープンソースのコードベースというよりも、現実世界におけるニーズとコンセンサスに基いてビットコインを前に進めようとしている。例えば、北京でのミーティングの中で、BitmainのCEOであるジハン・ウー氏は次のように語っている。

ビットコインは可能な限り早く、ブロックのキャパシティを引き上げるべきだ。マネーとして、支払いネットワークとして、そして価値の貯蔵手段として人々が利用できるように。そうすれば、ビットコインは元の市場シェアを取り戻せるだろう。市場シェアは議論と関係のない話ではない。米ドルがどれだけの市場規模を抱えているか知っているだろうか? 数百兆ドルだ。不動産市場や、債権、株式は、そのほとんどが米ドルで投資されている。[中略] ご存知のように、ビットコインでこれだけの投資を行うことは現状不可能だ。だから今すぐキャパシティを引き上げ、ビットコインを前進させねばならない。

さらに、ハードフォークに対するモチベーションとして、アルトコイン急進に対する危機感についても触れた。

通貨の発展という観点から見た時に、独占こそが成功の一因だと私は考えている。そうでなければ、米ドルのように、その通貨を用いたあらゆるアプリケーションが作られることはないだろう。もし、ビットコインが独占状態を維持できないのであれば…、それは非常に悪いことだ。[中略] ビットコインは通貨として生き残らなければならない。決済ネットワークとして進化しようとすれば、他のシステムに取って代わられるだろう。

「ビッグブロック」を支持する理由としてたびたび挙げられる論点には、ジハン・ウー氏が言うように「決済ネットワークとしての進化は認めない」というものがある。これは、Blockstreamをはじめとするコア開発者が推進するライトニングネットワーク(LN)などのセカンドレイヤー技術が、ビットコインのメインネットワーク(ブロックチェーン)を「セトルメント・システム」に成り下がらせる恐れがあるという主張だ。

LNは、ペイメントチャネルと呼ばれる技術を用いてLNによる決済ネットワークにユーザーが事前のデポジットを行い(チャネルの開設)、LN内で小口の高速決済を行う仕組み。大半のユーザーは最終的にビットコインのブロックチェーンを意識せず、LN上で支払いを完結させることができるため、ビットコインのブロックチェーンが通常の支払いに使われることがなくなり、数百万以上の大口決済のみブロックチェーンを通じて「セトルメント」(精算)することになるとジハン・ウー氏は主張する。

マイナーの本心としては、LNが実現することで小口のユーザーからトランザクション手数料を取ることができなくなるという懸念もあるのだろう。いずれにせよ、「LNを実現しビットコインをセトルメント・システムにした場合、長期的に見れば失敗に終わる。キャパシティを拡張し、オンチェーンでスケールさせる必要がある」というのが、ビッグブロッカーの主張のようだ。

Blockstream政治の批判

本稿のはじめに「この問題はハードフォークを肯定するか、しないか」に集約できると述べたが、開発のガバナンスという観点と、マイナーの主張から「ビットコイン政治」の問題にも触れておく。

歴史的事実を踏まえると、Segwit支持者やUASF支持者にとっては、2016年11月のViaBTC及びBitcoin.comによるSegwitの拒否宣言、そしてその後のBitmain、BTC.topら大手中国系マイナーによる「下克上」が起こったと認識しているはずだ。

しかし、マイナー側からはまったく違う景色が見えている。ジハン・ウー氏の証言によれば、2014年11月にBlockstreamが創設されてから、ビットコインのコミュニティは政治色が強くなったという。

私は歴史的経緯を完全に理解している。ビットコインは、Blockstreamが誕生して変わってしまった。彼らは多くの開発者を雇い入れ、彼らに賛同しない企業や個人を攻撃しはじめた。[中略] 2014年から2015年に掛けてブロックサイズを引き上げようとコアと戦った男を覚えているだろう。彼は勇敢だった。まさに西部から来たカウボーイだった。しかし、無慈悲にも叩かれた。

Coinbaseのブライアン・アームストロングCEOは、Bitcoin Classicの最大の支持者の一人だったが、今ではビットコインコアに関する発言を控えている。

2015年に公開されたBitcoin XT(ギャビン・アンドレセン氏とマイク・ハーン氏による)の前後には、マイナー、事業者を含め様々な提案が行われた。マイナーは8MBブロックに合意し、XapoやCircle、BitPay、BitGoなどメインストリーム事業者は、Bitcoin XTで採用された「BIP101」に賛同した。ところが、時を同じくしてRedditなどの主要コミュニティにおいてハードフォークに関するあらゆる提言や議論が検閲され、たちまち発言が削除、あるいはモデレーターTheymosにより掲示板から追放される事態が発生した(※Theymosは、BitcoinTalk、Redditの/r/bitcoin、bitcoin.itなど複数コミュニティのモデレーター権限を有している)。ビットコイン・ジーザス、ロジャー・ヴィア氏やジハン・ウー氏、その他のビッグブロック支持者は、これらの「検閲」がBlockstreamにより行われていると考えているようだ。

さらに、北京ミーティングの参加者20数名の中には、はっきりと「Blockstreamはプロパガンダ・カンパニーだ」と批判する声もあった。

私は2015年にはコアを支持していた。XTの中身をよく知らなかったからだ。コードを読みこんだわけでもなかった。私が彼らを褒め称えるブログを書いてTweetすれば、Coreの誰もが、アダム・バックさえもLikeを押した。賞賛の嵐だ。ところが、私がBitcoin ClassicについてTweetしたらどうだ。即Blockの嵐だ。[中略] Blockstreamは、プロパガンダ・カンパニーだ。開発者に快適な環境を与える代わりに、会社はプロパガンダ・マーケティングを行っている。直近の採用を見てもわかるだろう。これはジハードだ。ビットコインは、ムスリムの「ジハード」に突入している。

また、ジハン・ウー氏はこれに呼応するように「殆どのコアはマスコットだ。誰もがグレゴリー・マクスウェル(Blockstream CTO)の意思に従っている」と、Blockstreamとコア開発の政治を批判した。

コアの思惑は

一方のコア開発者側といえば、ある種の諦めムードが漂っている。元々、ナードでギークな研究者気質の開発者から見れば、ビットコインの政治に興味が持てないのも当然だろう。先週日本で催されたミーティングにおいても、共通していたのは「ビットコインにはソーシャル・コントラクト(社会契約)がないのだから、各自が好きにやればいい」というものだ。

よく言えば「成行き」に任せるといったところだろうが、身もフタもない言い方をしてしまえば「もうどうにでもなれ」である。

コア開発者も、全員がUASFに賛同しているわけでもなく、多くは否定せずの姿勢をとっている。すなわち、待望のSegwitを作ってみればマイナーに焦らされ、気がつけばバリー・シルバート氏らが率いるニューヨーク協定(NYA)なるものが突然降ってわいたわけだ。見る人が見れば理解もできようものだが、Segwitが目前に完成しているのにも関わらず、「ハードフォークを実行しなければ採用はできない」と言われても困惑するしかないだろう。

「Segwitを待ち望んでいるのは皆同じだ」と、Blockstream CSOのサムソン・モウ氏は語る。「ジハンもSegwitを認めている。だからSegwitは8月にアクティベートされることになるだろう。その後にどうなるかは誰にもわからないし、各自で好きにすればいい。」

優しい独裁者の不在

「ビットコイン分裂騒動」に関わる意見の対立の根幹には、他のオープンソース・プロジェクトと異なり「優しい独裁者」(Benevolent Dictator)が不在であることも1つの原因だ。

通常、オープンソース・プロジェクトにはコミュニティ全体を統括し、調停し、善意で開発方針を主導するリーダーが存在する。それを利用する企業や業界が異なれば、当然ながら要求も異なる。ステークホルダー間で必ず衝突が起こるため、それを調停する「優しい独裁者」が必要になるのだ。ビットコインでは、「分散型の合意」を求めるあまり、ラジカルなアップデートに対して通常であれば決定を下すことができる独裁者が存在しない。

また、従来のオープンソース・ソフトウェアでは、決定が気に入らなければ別のプロジェクトにフォークして独自の実装を加えることもできる一方で、ビットコインにおいてはコンセンサス層に手を加えれば「分岐」してしまうため、そのようなフォークにも手を出せない。したがって事業者やマイナーは、コア開発者に要求を出すか、自らコードを書くかしてコアのコードに取り入れてもらう必要がある。別の言い方をすれば、あらゆるステークホルダーは自己の利益を追求するためにも、圧力を掛け続けることがビットコインにおける最適な戦略である。

ビットコインの開発コミュニティに「優しい独裁者」がいたのは、ビットコインの考案者サトシ・ナカモトがプロジェクトに籍をおいていた時期だけだろう。ギャビン・アンドレセン氏は、マイク・ハーン氏らのアドバイスを受けて優しい独裁者になろうとしたが失敗した。議論の中でたびたびサトシのホワイトペーパーが引用されていることを考えると、コミュニティ内で現在も最も影響力を抱えているのはサトシ・ナカモトだ。

オープンソース・ソフトウェアとしてビットコインは特殊であり、これら特有の問題を解決するためには、ビットコインが「全体で1つであることを前提にしたプロトコル」を放棄するしかない。そうすれば、各々が自由に開発してアプリケーションを構築できるし、自己の顧客のニーズに応えることもできる。

現在のプロトコルが広い意味でのスケーラビリティの限界に直面していると考えるのは、コア開発者も同様だ。ビットコインのセカンドレイヤー化はそれを解決するための最たる例だ。コンセンサス層に手を加えずとも、あらゆるアプリケーションや実装がLNなどの上で行われるようになれば、事業者も自己の顧客のための改善にあたり、技術障壁の制約を最小限にできるだろう。

Segwit2xの問題点

Segwit2xは、ニューヨーク協定(NYA)で50社超に支持された提案で、ジェフ・ガージック氏がリードして開発が進められている。BIP91は元々コア派に提案されたSegwit有効化閾値95%から80%に引き下げる提案であり、BIP102はジェフ・ガージック氏が2015年に提案し、当時はBlockstream CEOのアダム・バック氏も賛同した2MBハードフォークだ。Bitcoin Unlimitedのエマージェント・コンセンサスに比べればだいぶ保守的であるし提案内容にも賛同できる。事実、多くの事業者らは妥協案としてNYAを支持し、90%超のハッシュレートも確保していることから、このまま行けばSegwit2xの実現は確実そうに思える。

提案の内容自体に問題はなく、支持も充分に集めている。そんなSegwit2xの何が問題になるのかといえば、(1)期限ベースの開発手法、(2)クローズドな開発、(3)不十分なハードフォーク計画である。ハードフォークも含めた大掛かりな変更にもかかわらず、プロジェクトの発足から1.5ヶ月以内でのリリースを予定するのは、あまりにも無茶がすぎると言える。そして開発が進められているbtc1リポジトリは、スモールブロック支持者による「政治的トーク」が目立ったため、発言自体が承認制になった。これ自体に大きな問題があるかといえば正直なところ判断がつきにくいところではあるが、開発の不透明さが増すと非難されることも多い。(3)に関しては、前述した「ハードフォークリサーチ」の内容を盛り込まず、BIP102だけでHFする合理性がないというものだ。

一方、Segwit(BIP141)さえデプロイされれば一旦良いとする声もあり、また同支持者であってもハードフォークまで支持しているわけではないのではないか、という実に興味深い考察もあった。ジハン・ウー氏も、次のように述べている。

NYAも多くの面でリスキーだ。協定をサボタージュする賛同企業も多いだろう。実際に何が起こるのかは、その時になってみなければわからない。選択次第ではNYAの中でも2つに分岐してしまうかもしれない。

8月1日に向けて

Segwit2xの進捗が芳しくない今、UASFのアクティベーションは免れようもなく、残すはマイナーがレガシーチェーンに残るか、UAHFを起こすかの二択となる。そしてUASFを支持するマイナーが極めて少ないことから、成功する可能性は殆どないと予想される。また、その後UASFのコンセンサス・アルゴリズムを変更して強制的にディフィカルティを下げるHF案が提案されているが、ビットコインの思想を根本から覆すことになるため当案が支持を得られるとは到底思えない。事業者らの追随を見ることもないだろう。

8月1日にUASFがアクティブになると、およそ12時間後にBitmainがUAHFを実行し、8月4日中に新しいビットコイン(Bitcoin ABC)をネットワークに公開することになっている。この時、予定通りにUAHFが行われた場合はUASF/レガシー/UAHFの3つにビットコインが分岐することになるが、そもそもの実行可能性が見積もれない以上、UASF-HF同様に事業者やユーザーのフォローを期待するのも難しい。したがって、このケースにおいてもレガシーチェーンが継続する可能性が最も高い。

既にBitcoin.orgで告知が出されているように、分岐によって万一BTCが失われるリスクを避けるためにも、一般ユーザーは8月1日から最低でも3日間はビットコインを使わないことをおすすめする。取引所も、その間は入出金や決済の利用を停止するはずだ。取引所にBTCを置いている場合、万一の喪失リスクに備えるならばBTCを引き出すことも検討した方がいいだろう。

問題が収束し、仮に分岐が起こってしまった場合、たとえ取引所に分岐したBTCが上場しても、投機的に行動するのは危険だ。分岐したBTCを売るために送金を試みるなら、自己のウォレットの安全性について一考しよう。まず、あなたが使用しているウォレットにリプレイ攻撃対策が施されているかを確認すること。コインコントロールが出来ていなければ、両方のBTCを同時に送ってしまう可能性があるからだ。そして安全を期すならば、予後の経過を見るためにコミュニティをしっかりと追っておこう。RedditやTwitterが最も情報が早い。

後記

北京・東京とミーティングを重ねていくうちに、この溝はなくならないと感じた。北京ではジハン・ウー氏の「UASFが起こるならUAHFも辞さない」という一貫した覚悟を見せつけられ、東京では「好きにすればいい」というコアの主張に飲まれた。お互いに違う視点でビットコインの未来を見据えており、それが交わることに期待できそうにもない。

より本質的な話をすれば、今回の分裂騒動は「ハードフォーク」に関する問題だが、それ以上に根深い「意思決定」の問題が浮き彫りになった形でもある。おそらく、今回の問題が解決したとしてもビットコインは今後も同様の問題に直面するだろうし、筆者の完全な主観だが、むしろ変にしこりを残したまま解決してしまうと、次はより大きな問題に発展してしまうのではないかと危惧している。だから、この際とことん対立しお互いの妥協点を見出すまで闘い続けた方がいいのではないだろうか。

8月1日に何が起こるかは、未だ予想がつかないのが正直な感想だ。もしかしたら何も起こらないかもしれないし、分岐が起こったとしてもイーサリアムのように、結果的に問題にならない可能性だってある。

とにかく気楽に構えるのが、ビットコイン流だ。

この結論に至る数ヶ月前に、Twitter上でsatofumiさん(@23sato4)という方に「アローの不可能性定理」を教えてもらった。アローの不可能性定理とは、投票ルールをはじめとする集合的意思決定ルールの設計の困難さに関する定理のことで、簡単に説明するならば選択肢が3つ以上ある場合に、うまく意思決定するための手段はないということを説明している。そもそもビットコインには投票システム自体がないので、いまだにどうやって意思決定を行っているかも定かではないのだが、これが何らかのヒントになるのではないかと漠然と考えているので、別のポストで適用を試みてみたい。

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この記事を書いた人

ざきやま(山崎大輔)
ざきやま(山崎大輔)from Cryptocurrency world
ビットコイン専門記者 BTCN編集長
ブロックチェインの可能性を、知的財産の保護やゲーミングカルチャーへ応用できないかと考えてます。
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