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本連載の最終回を飾るのは、株式会社WiLの久保田雅也パートナー。WiLは2014年に設立され、東京とシリコンバレーの2箇所に拠点を置くベンチャー投資育成会社です。大企業のリソースを活用しながら、グローバルで通用する企業を育てていくというユニークな手法をとる同社の投資先にはビットコイン関連企業も。今回、久保田氏にシリコンバレーの最新動向と、本邦初公開となる21, Inc.への出資の背景と狙い、そして9月16日に開催される日米VCカンファレンス「MOMENT 2016」に合わせて来日する21 CEOのBalaji Srinivasan氏のビジョンについて聞きました。

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廣末:私から見るに、久保田さんは最もこの業界をご理解しているキャピタリスト。

久保田:恐縮です。

廣末:本日、投資と仮想通貨というテーマでお話を聞きたいと思っています。よろしくお願いします。

久保田:よろしくお願いします。

廣末:まず、WiLについて簡単にご紹介いただけますでしょうか。

久保田:WiLは2014年に、シリコンバレーで活動する伊佐山元、日本の西條晋一、松本直尚の3名で共同創業したベンチャー投資育成会社です。その他に4名のパートナーがおりまして、日米で計7名の投資担当者で展開しております。ファンドの金額は3億6千万米ドル、日本円にすると400億円ほどの資金を運用しています。(編注:取材時点1米ドル=110円で換算)

投資先は主に、日本と米国のICTを中心とするスタートアップ企業です。コンセプトは、時価総額100億円以下でIPOといったような、サブスケールなスタートアップの状況を打破すること。企業が規模感を持ったグローバル展開を行っていくために、成長のためのリスクキャピタルをパブリックマネーではなく、プライベートの投資家から調達できる環境を整えたいという思いがあります。

アメリカなんかだと、最近もUberが50億米ドルの調達をしていて、パブリックな投資家を気にせず成長と収益化に専念できる環境があるわけです。一方の日本は早々に上場を強要してしまうが故に、スケールできないまま利益を気にして、上場ゴールで終わってしまうということがある。「スケールする」ということを考えると、グローバル展開はひとつのポイントであるわけです。そこで海外と日本、それぞれにチームを置くことによって資本も含め、ハンズオンのサポートを行っていくと。

廣末:なるほど。

久保田:もうひとつは、ベンチャーがスケールするにあたって大企業のリソースでレバレッジするべきじゃないかと思っていて。大企業を見回してみますと、本来であれば世の中に出てしかるべきプロダクトやサービス、あるいは世界で通用するエンジニアがごろごろといるわけです。

彼らは今、オープンイノベーションという言葉の中で、内部のリソースを外部との連携で活用していきたいと思っている。そのひとつの解が、いわゆるコーポレートベンチャーキャピタルというものですが、我々が提示した解はそうではなく、大企業から出資の一部を頂戴しながら、ファンドの運用はプロに任せていただく。かつ、僕らのリソースの一部を大企業のオープンイノベーションプロジェクトに割いていき、場合によっては、既存の人材やテクノロジー、IP(知財)を買って、切り出して。そのリソースを元に新しい会社を作っていくことで、グローバルに通用するベンチャーを創る近道になるんじゃないかと。純粋に投資収益を求めることがひとつのゴールではありますが、大企業の既存リソースを利用するというアプローチはユニークで、投資の観点からも非常にメリットがあると思っています。

廣末:西條さんがSONYとやってるパターンなんかは、理想に近い。

久保田:そうですね。Qrio(キュリオ)はSONYとWiLの合弁会社というかたちで作ってまして。当時、SONYは産業として成長してきているスマートホームの領域であまり手が打てていなかった。一方、GoogleはNestを買ったり、自身でもGoogle Homeを展開したりしていて、AppleもApple TVでホームマーケットを獲りに行っている。我々としては、アメリカの状況からして「何故SONYはこの業界を獲りにいかないんだろう」というのがそもそもの問題意識だったんですね。なので、SONYに「これをやりませんか」と提案をして、SONYもそれに乗ってくれた。

この座組みのいいところは、SONYの一流のエンジニアを借りてこられるということ。そして、サプライヤーや部品調達を、SONYが市場で懇意にしているところから持ってこられる。ベンチャーがこれをゼロからやろうとすると、おそらくは工場との交渉やサプライヤー探し、量産が非常に苦労するところなんですね。プロトタイプを設計できても、量産してみたら全然別物だったりして。

廣末:スタートアップだとかなり大変ですよね。

久保田:そうです。ここで、SONYのノウハウが活きるというわけです。

廣末:そこのノウハウ、既存のリソースの活用というのを、西條さんがやっていると。

久保田:あのケースは西條自身が社長をやっていますが、場合によっては外からプロ経営者としてEIRを連れてくることもあります。日本でもそろそろ普及してもいいと思いますが、我々にはそういった方々のリストもあり、今後できるであろう大企業との新会社においては、外部から社長を招いてサービスやプロジェクトを作っていくことになると思います。
(編注:EIR=Entrepreneur In Residence; 客員起業家)

大企業と組むことで、先ほど述べたようなものも含めいろんな障壁をショートカットできていますし、逆に、SONYからしても新しいプロダクトをすぐに出せるようになる。かつての彼らだと、平気で2年以上掛かったんですよ。QRIOではそれを、最初の提案から8ヶ月でやっている。これは異例の速さだということで、出向に来られたエンジニアの方々も得られる経験は大きかっただろうし、SONYとしても経験値を積めたんじゃないかと。

廣末:素晴らしい。

久保田:この展開は正直、リソースや負荷がかなり掛かりますが、日本発のベンチャーとしては多分かなりユニークだと思います。日本の場合、完全に外の人間だと信用できないと思うんです。どこかのVC、たとえばセコイアの人がきて「やりましょう」って言っても「うーん…、まだ信頼関係が…」となる。

廣末:ありがちですね。

久保田:日本企業は、こういった人間的な繋がりのところで一歩足を踏み出しにくいところだと思うんです。我々の場合は出資して頂いているので、赤の他人ではないですし、非常に近しい仲になる。完全に内部でも、外部でもない、その中間解を僕らは提示しています。

廣末:大企業のリソースをカーブアウトして、外部のリソースを組み合わせることで速度と結果を改善できたと。

久保田:そうですね。大企業の場合はやはり、「1→10」ができても「0→1」が中々できないんですね。というのも、ブランドエクイティとしてのSONYやNISSANが非常に強いが故に、新規事業や新サービスの芽を育まないというところがあって。

要するに、新規事業を始めたとしてSONYにとってのファイナンシャルインパクトがないわけです。たとえばこれが年間数億円売れたところで、PLになんら影響を与えることがない。ですが、新規事業はそこを通過して数千万ドル、数億ドルの事業に育っていくわけで、小さなチャレンジとフェイルを繰り返していく必要がある。なので、新しい一歩を踏み出させるという意味でも、大企業の枠組みの外でメジャーしていく。Qrioの売上も、SONY全体からすると本当に小さい規模だと思いますが、ベンチャーとしては成果が上がってきていまして。

それに、SONYには今すぐ外に出しても事業化できそうなものがたくさんあるんですよ。アメリカでIoTがブームになった頃、ベンチャーがどんどん出てきたじゃないですか。あれよりもずっとデキがいいものがゴロゴロある。なので「なんで出さないのか」と聞いてみると、たとえば「100万個売れる事業計画がないとできない」という話になるわけです。

今はクラウドファンディングでプリセールをして、とりあえず100個売ってみて、フィードバックを受けながら改良し、最後にマスプロダクションに持っていくという時代じゃないですか。もっと言うと「売る」こと自体は手前の行為で、そのデータだったりサービスだったりが提供価値のコアなわけです。僕らから言わせると、「モノ売りの個数」って発想自体が相当に時代錯誤。ですがSONYの中、大企業の中で起きているのはそういうことで、閾値が高すぎるが故に、企業的インパクトがないものが捨て去られていく。これは非常にもったいない。

廣末:確かに、最初は小さくてもやり方次第では化ける可能性が充分にある。SONYさんのような大企業であれば、テクノロジーや品質は安心できますから。

久保田:そうなんです。海外だと日本ブランドのハードウェアのファンがたくさんいますから。可能性と機会の大きいマーケットだと思うんです。

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スタートアップには冬の時代

廣末:ミクロな話に入る前に、マクロでのリスクマネー、VCマネーの動向についてお聞きしたいと思います。今年から、マーケットの変調があると言われ始めていますが、グローバルの視点から見てどのように視ているのでしょうか。

久保田:基本的に、シリコンバレーが冬の時代に突入したという認識で正しいと思います。いわゆるユニコーンと言われる10億ドル規模のメガベンチャーは現状、軒並みコストカット、レイオフを続けており、いかに黒字化への道筋を立て、その時間軸を短くするかというところに腐心している状況にあります。投資家のキーワードは今や「グロース」に代わり、「ユニットエコノミクス」ですね。

変曲点は、2015年の8月から9月にかけて。中国をきっかけにマーケットが冷え、第四クオーターあたりから地合いが悪くなっています。これをきっかけに、これまでレイターステージのファンドレイジングに入ってきていたミューチュアル・ファンドやヘッジ・ファンドのような機関投資家の投資がほぼストップしている。なのでレイターの方がより冷えている印象です。

廣末:金利が下がり、世界的なデフレ傾向にあって安全資産の運用ができない今、リスクマネーに配分していこうという流れになっている。しかし、そこも止まってしまったと、そうなると今後、マネーはどこに向かうのでしょうか。

久保田:仰るとおりです。そういう意味では、VCファンドのファンドレイズは実はずっと続いてまして。今年の第一クオーターも20~30億米ドル級のファンドがどんどん立っているんですよ。

廣末:そうなんですか?

久保田:ついこの間にも、アンドリーセン・ホロウィッツが15億米ドルをレイズしてるんですね。なので状況としては、投資先がないんだけども、投資マネーが滞留して、ファンドにプールされている。そこのアンバランス感はまだあります。で、憶測も入りますが、これがさらに冷え込むとVCのファンドレイズも厳しくなるんじゃないかと。なので、今のうちに集めに行っているとの穿った見方もできるかもしれません。

ひとつのキーは、中国マネーの存在感。LP投資の方でもどんどん存在感を増してきているので、彼らの資金フローがうまく流れ続けるかどうか。今は既に冬ですが、これが細ってくると本格的に、さらなる構造的停滞に晒されるリスクを孕んでいるのかなと。

廣末:世界的に見て、リスクマネーのイグジット機会が減少傾向にあることがリスクだということですね。

久保田:おっしゃるとおりです。

廣末:中々、積極的に投資しづらい環境にはありますよね。

久保田:そうです。Trelloが今年の6月にIPOしましたが、これは2016年に入ってからシリコンバレーで初めてのIPOなんですよ。そのくらい、キャピタルマーケットの窓が閉じている。出口がないまま投資ばかりが続いていて、気がついたら外が冷えてきたということで、どこもコストカットして、戦略を練りなおしているような状況でして。

それで、IPOのマーケットもですが、今年を振り返るとM&Aも非常に少ないんですよね。最近ようやくMicrosoftがLinkedInを買収したという話が出て、徐々に増え始めてはいるんですが。

廣末:確かに、あまり聞きませんね。

久保田:これは、メガITが自社サービスの開発やローンチの方向に戦略をシフトしているのかなという気がしてまして。今までのように、どんどんベンチャーを買って、ということが起こらなくなってきた。最近またM&Aが増えてきましたが、主な買い手はGM、ウォルマート、ユニリーバなどリアルなレガシー企業が多い。

結局のところ、リーン・スタートアップがブームになって、一見コスト面で起業しやすくなったように見えるんですが、メガITが大きすぎる、あるいは強すぎるが故に、成功のスペースがあまり残されていない気がします。色々な事業においてバリューの根幹を占めるデータにおいて、FacebookやGoogleに勝てるところがなくて。

何をやっても彼らの上でしかプレーできないという構造になってきている。彼らの経済圏が拡がっていけばいくほど彼らが強くなって、スタートアップに勝負の余地を残していない。なので、IoTやVR、FinTech。Cryptocurrencyもそうですけど、みなが新しいフロンティアを求めて勝負を仕掛けているという構図になっています。当然そこはハイリスク・ハイリターンなので、投資家からしても非常にリターンが見えにくいマーケットでもあると。なので、投資環境としてはそれほどよくありません。

廣末:このような環境になってくると、今までアクセルを踏んでたところはコストが重くなって、当然逆回転になる。ユニコーンは今、そういう反動に晒されているということですね。

久保田:そうですね。

廣末:この停滞はどれくらい続くのでしょうか。

久保田:この間シリコンバレーの人に聞いたのは、今は思った以上に冷えてるので、逆に来年良くなるんじゃないかと。

廣末:短期的なものだと。

久保田:逆に、今がかなり厳しい状況だとも言えますね。

ビットコイン・ブロックチェーンへのVC投資トレンドは

廣末:ブロックチェーンやクリプトカレンシーの領域に関して、世界的な投資のトレンドはどうなっているのでしょうか。

久保田:2013年からビットコイン・ブロックチェーン関連の投資が急増しています。金額にすると、2015年で大体4億7千万米ドル。2013年を振り返ると5千万米ドルなので、2年で10倍に膨らんだことになります。シリーズに関していうと、2013年は当然ながら規模の小さなシードやエンジェル投資の案件がかなり多い。2015年にかけてはレイターステージの大型投資が増加しています。

2016年を見ると、金額的には2015年から横ばいになっています。ただ、大型投資が殆どを占めていて、小ぶりなシード投資はあまり活発ではありません。スケールしている大きな会社に資金が集まりつつあるというのが今の状況です。

廣末:投資先に関してはいかがでしょうか。

久保田:2013年はビットコインが非常に熱かったんですが、2015年の中頃にブロックチェーンへのトレンドシフトが起こった結果、現在ビットコインは非常に低迷しています。一方のブロックチェーンは、不動産やヘルスケア、IoTなど金融以外のアプリケーションを含め、テーマ性の拡がりを持ったかたちで注目を集めています。

カンファレンスにしても、5月に開催されたConsensus(編注:CoinDeskが2015年から主催)では、昨年は「クリプトカレンシー」がテーマだったのに対して、今年は「ブロックチェーン」。また、内容も昨年は「リサーチ」、みなさん勉強のために来ていて。一方で今年は「PoC」(編注:Proof of Concept=実証実験)で、実際に運用するために何をしなければいけないかというところに焦点が当てられていた。それはVC投資の観点でも同じです。

21,Inc.への出資

廣末:WiLは1億1千万米ドルの調達をした21,Inc.にも投資をされているそうですね。今回、公表できるということで、21,Inc.への投資について、その背景と経緯についてお聞きかせいただけますでしょうか。

久保田:理由はふたつあります。ひとつは、今21,Inc.のCEOに就任しているBalaji Srinivasan。彼自身の能力、彼そのものへの信任。彼は元々アンドリーセン・ホロウィッツのジェネラル・パートナーだったんですが、シリーズCのタイミングでアンドリーセン・ホロウィッツがリードするにあたって、Balajiが「俺が行く」と言って、CEOになった。彼がコミットするストラクチャ自体が、非常に大きな理由のひとつです。

もうひとつは、彼が描く世界観。今、中国にマイニングが牛耳られているのを、民主化する。彼の言葉で「Distributed Mining」(分散型マイニング)というコンセプトなんですが、世界中のあらゆるコンピュータにマイニングチップが埋め込まれることによって、中国のマイナーが寡占しているこの状況を打破すると。

打破された先の、ビットコインが本来持つ「Permissionless Payment」と、トランザクションフィーが限りなくゼロに近づくという点。この2点のメリットを活かすと、マイクロなペイメントができるカレンシーとして、ビットコインが使えるようになる。つまり、マイニングを民主化しつつ、マイクロトランザクションにつなげていく。この壮大な計画に惚れ込んだということですね。

VC投資にはヒットを狙いに行くアプローチの案件もありますけど、これはホームランを狙いに行く案件。もう、当たれば満塁ホームランですから。

廣末:僕も最初、これを見た時ぶっ飛んでるなと。中国の寡占状況はたびたび問題視されていますから、アイデアやコンセプトはあると思うんです。けど、自分たちでハードウェアを作って、それを世界中のデバイスに埋め込むということになると、ちょっと。流石にシリコンバレーの凄さを感じましたね。

久保田:ぶっ飛んでますよね(笑)

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廣末:発想のスケールが素晴らしい。しかも、そこにアンドリーセン・ホロウィッツが巨額のカネを張っちゃうところも凄い。そしてWiLがそこに参加できたこともレコードだと思うんです。これはどのような経緯なのでしょうか?

久保田:要するに彼らは、たとえばスマホに21のビットコインチップを入れて、気がついたらマイニングしているっていう状況が作りたいわけです。それで、我々のLP企業さんにはSONYさんやJVCさんがいる。ハードウェアや家電となった時、日本は欠かせないマーケットなんですよね。

扇風機にもテレビにも、エアコンにもマイニングチップが入っている、というのが彼らの世界観なので、そこのビジネスディベロップメントを一緒にやりたいというのが我々の期待値ですね。

廣末:大企業のリソースを活用するかたちで、イノベーションを加速させるというWiLのコンセプトが、21とマッチしたと。

久保田:そういうことです。

廣末:では、願わくばSONYのハードウェアにも21のチップが入って、決済などを自動で行えるようなことが起こればいいなと。

久保田:そうです(笑)

廣末:素晴らしい!(笑)

久保田:彼らは今もう、第3ステージにきていて。それが「Free 21 Software」。

廣末:出しましたね。

久保田:コンテンツを読んだだけで課金ができる。メールの受信に課金ができる。いわゆるマイクロメディアの課金手段として、これしかないんじゃないかというのを今回出してきた。

第1ステージが「クラウドマイニング」、
第2ステージが 21 Bitcoin Computer による「分散型マイニングとマーケットプレイス」、
第3ステージが Free 21 Software による「マイクロペイメント」。

これは彼らの当初からのプランで、今のところそのとおりにやっているというかたちです。

廣末:驚きですね。21 Bitcoin Computerに関しては、日本でも実際にいじってるマニアックな人がいますよ。

久保田:ビットコイン関係のマニアな人と話すと、大抵「僕持ってます」って言いますね(笑)。

廣末:(笑) みんな買ってるんですよね。ちなみに、21の株主構成はどのようなかたちになってるんでしょうか。

久保田:そうですね、アンドリーセン・ホロウィッツがリードして。その次に大きかったのは中国のVC。あとはクアルコムですね。日本の事業会社も小額ですが、実は1社入ってます。21とBalajiからすると、日本はキーマーケットだと。

廣末:ハードウェアですね。

久保田:家電や民生機器って、日本は非常にキーマーケットなんですよ。

廣末:すごいのは、強みがないと投資のオポチュニティがないってことですよね。

久保田:そうなんですよ。投資家が殺到して、あっという間に資金が集まってしまいまして。

アンドリーセン・ホロウィッツがリードで、「21の壮大な世界観が当たったら凄いことになるぞ」と太鼓判を押して。そこにさらにBalaji Srinivasanというエース級が放り込まれて、ベン・ホロウィッツもボードに入ったと。これがもう、既にクオリティの高さを物語っているわけです。

廣末:ぜひ、成功してほしいです。僕らもこういう取り組みは凄くワクワクしますので。

ビットコインはニッチからマスへ、ブロックチェーンは浮き沈みをしながら浸透

廣末:キャピタリストの視点から見た時、ビットコイン・ブロックチェーン関連のビジネスの変遷をどのように視ているのでしょうか。今回、日本で法案も決まり、さまざまな会社が取り組みを開始されていますが。

久保田:ビットコインについては一年半前にアメリカでCoinbaseが大型調達したきり、冷えていると。それを踏まえて最近の国内の大型調達の話を鑑みると、一定のタイムラグを置いて日本に来てるなと感じています。やはり要因としては、マウントゴックス事件があったので、一旦の谷があったのかなと。

まさに今、法案が通ってビットコインがニッチからマスに拡がり始めた段階だと思っています。とはいえ、何かアプリケーションがあるかというと、中国人が人民元をビットコインに替えて保管するだとか、途上国の人が国際送金をするのに送金手数料が抑えられるだとかはあるものの、個人のニーズはそこまでありません。とはいえ、ビットコインが経済活動の基盤として、貨幣として流通する上では取引所のリクイディティ確保はマストだと考えていまして。

日本においてここをドライブしていくのは当面スペキュレーション、投資対象としてのビットコインなんだろうなという気がしています。店舗で実際にビットコイン決済をしたり、EC決済に使えたりというのはまだまだ先のことだと思う一方で、本格的にそういったものが出てくる時に、取引所が育っていないと安定した価格で換金することができません。その点では、まさにそこが発展する初期段階に来たと思っています。

廣末:取引所のリクイディティが潤沢にあってはじめて、送金のようなサービスができるようになりますから。

久保田:はい、なので当面は取引所だと思いますね。かたやブロックチェーンに関して言えば、実証実験が進み、ノンバンクを中心に金融機関の採用がようやく出始めているものの、じゃあ本格的に使われていくかというと、人によって時間軸の見方はかなりわかれています。早い人は、あと2年くらいでブロックチェーンを基盤にしたシステムが稼働すると見ている人もいますし、長い人だと5年から10年くらいのスパンで見ている人もいる。

たださっきも言ったように、金融機関だけじゃなくて、ブロックチェーンの応用領域はかなり広い。スピードが要求されるシステムはブロックチェーンの苦手とするところだと思いますが、じゃあそうじゃないところの軽いアプリケーションに使っていこうよと。そうすることで、皆が徐々にブロックチェーンに慣れ親しんでいって、色んなソリューションが生まれていくというのがひとつの発展形になると思っています。

今は銀行や証券のバックエンドみたいな話がメインだったりしますが、不動産だったり、ちょっとしたスマートコントラクトの世界だったりのユースケースがどの段階で出てくるか。それによって時間軸もかなりブレる気がしています。

人類が経験したことがない世界に突入した

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廣末:ちなみに、ブロックチェーンに関して僕はかなり時間が掛かるんじゃないかと思っています。出るとしても既存のものではなくて、21じゃないですけど、マイクロペイメントのようなまったく新しい領域でユースケースが見つかるパターン。久保田さん的には、どのくらいで見てるんだろう。

久保田:難しいですね…。

廣末:まあ、解はないと思うんですけど。ただやっぱり時間がかかり過ぎちゃうと、失敗の烙印を押されかねない。

久保田:どうなんでしょうね。ビットコインも、2013年に盛り上がりを見せてから、今2016年。この3年間はステーブルにキレイなカーブを描いてきたわけじゃないと思うんですね。マイク・ハーンショックが起きて、「もう死んだ」みたいに騒がれたけど、その問題も解決の糸口が見えて7月か8月にはfixできそうだと。その他にもサイドチェーンみたいなものも出てきていて、結構浮き沈みがあるわけですよね。

廣末:そうですね。

久保田:ブロックチェーンはその意味で言うと、初期サイクルのハイプのピークにあるわけです。なので、一旦は冷えると思うんです。

ただこの技術がもたらす革命は非常に価値があるので、長い目で見た時、今テイク・オフしないからといってクールオフするかというと、そうは見てなくて。相当長い目で見れば、今は入り口の混乱にあるわけですよ。だから僕はETHの価格もすぐ戻ると思ってるんですけど(笑)。(編注:取材時はちょうど、The DAOのハック事件で暴落した直後だった)

廣末:なるほど(笑) やはりキャピタリストとして、冷静に見られている。

久保田:廣末さんは、ちょっとフェイルするんじゃないかと見ている。

廣末:必ずしも万能ではない。プライベートブロックチェーンの効用はあると思いますが、複数の管理者で分散して管理することにはかなりの複雑さがありますし、デメリットも少なからずあります。効率面で言えばプライベートの方が圧倒的だと思いますけど、既存のシステムの10倍、100倍を作れるかどうか。ラーニングコストもそうですし、未知のバグへの脅威もある。そういうことを考えると、置き換えるだけの価値が本当にあるのかなと。むしろ21くらいシンプルな方がずっとワクワクします。

久保田:それは多分、廣末さんは「パブリックであるべし」という思想がある。

廣末:そうです。

久保田:プルーフオブワークとブロックチェーンがセットになったかたちでワークするビットコインのスキーム。ここに価値があると感じていて、プライベートブロックチェーンは意味がないだろと、そういう考えもよくわかります(笑)

廣末:僕らは完全にそっちの人間。どちらかと言えば、21の思想のように分散化したオープンなマイクロ決済というところ。価値移転ということが起こる世界観にワクワクしてますので。

久保田:Balajiは完全にそっちなんですよね、実は。

廣末:やっぱり。

久保田:彼のツイッターを良く見ますけど、やっぱりビットコインですね。プライベートのブロックチェーンの存在価値がわからない。これ意味あるの?っていうことをずっと言ってて。

廣末:全面同意です。僕らは何も否定はしないですよ。ですけど、本質的な価値はそこじゃなくて、インターネットによって情報の流通に障壁がなくなったというインパクト。誰でも情報発信がグローバルにできるインパクト。これと同じように、今回オープンなクリプトカレンシーの世界ができたわけです。この世界は、誰でも価値発行ができる、自由に移転ができるようになると。価値の自由流通ができるというのは、非常に大きなインパクトになるはずだと。

久保田:僕が思ってるのは、ビットコインっていうのは、テレポーテーションに近いと思ってて。今まで情報は送れたと思うんですね。で、モノの価値が送れるっていうのは、メディアが拡散しました、シェアしましたじゃないわけです。

要は2重取引を回避した。ここにない状態っていうのを、もう一方に送った時に作れているという事は革命的な訳です。その瞬間、さっき言ったようにエクスチェンジがあって、流動性があれば、僕は多分、目の前にあるポルシェを300km離れた廣末さんに送ることができるんだと思ってるんですね。クルマを一瞬にしてビットコインに替えて、ビットコインを送って、ポルシェを買ってもらえばいい。

それは、多分今まで人類が経験したことがない世界に突入している可能性があって。テレポーテーションが、ひょっとしたらビットコインによって可能になってるかもしれない、と僕は考えている。モノの移動が一瞬でできるんだと。

廣末:さすが(笑)

久保田:(笑) いやでも、そういうふうに考えると、とてつもない革命なんです。こんなこと今までできなかったと思いますよ。

廣末:そうですね。

久保田:決済って言っちゃうとすごくチープなんですけども、モノが電子的に移転できているというのは、新しく踏み出した世界なので。先進国である日本に住んでると必要性をあまり感じないんですよね。そのエリアっていろんな人達が狙ってて、いろんな話がくるんですけど。僕はビットコインでしかできないって言ってるんです。今も口座がふたつあったら、電子的にオンライン銀行で決済取引しちゃえば、432円かかるかもしれないですけど価値移転はできちゃってるわけですね。でもこれは価値の移転ではなくて、センターで帳簿を付け替えただけ。

そうじゃなくて、ビットコインは公開鍵のアドレスがあれば、そこに対してテレポーテーションが起きる。この非常に広いマーケットキャプチャができるっていうのが凄く大きくて。本当に価値を認識するっていうところには、この閉じた世界に生きてるとなかなか思えないかもしれないですよね。いろんな手段が豊富に溢れちゃってるので。

廣末:僕も決済は自分でさえ使わないですから。コンビニは24時間開いてるし、カードあるし、いらないっしょっていう。この日本にいるとそこまでビットコインを使う効用ってないんですよね。ただ今はそうでも、ブロードバンドになれば動画が送れるようになってということがビットコインでも起こりますから。そういうチャンスは掴まなくちゃいけない。

久保田:取引所が健全なかたちで普及するっていうのは非常に大事ですよね。最近やっぱり、急速にマスに拡がっている感じがあって。僕とかもそうですけど、イーサリアムで事故ってるじゃないですか(笑)。 このへんが変に跳ねないようなかたちで、今回のETHとDAOの件に関しても、日本のメディアは酷いあたり方をしていて。イーサリアム自体が悪いだとか、前の情報をはしょって、イーサリアムがハッキングを受けたみたいなことになっちゃう。

もう事故は起きると思うので。そこをうまく、一般の人たちに正しいリテラシーを提供するとともに、上手くはまっていけるトランジションができるかというところを僕らは見ている。はじめに、WiLの理念で「大企業と組んでベンチャーのイノベーションを」って言ったんですけど、ビットコインは最たるものなんですよ。大企業側からすると、やりたいけど、危ないから触れないというせめぎあいがあって。ビットコインの運用、これをうまく融合していけるかですよね。

廣末:おっしゃるとおりです。僕らも今、まずすべての基盤になるエクスチェンジをやっている。これは今エクスチェンジ以外に食っていく術がないというのもありますが、現状スペキュレーションのニーズに、かなり偏っているというのもあります。ただ、将来的にはスペキュレーションを助長したいわけじゃなくって、オープンな価値移転の凄さというのを形にしないといけないので。そういうところはもちろん、やっていきたい。

とはいえ具体的なキラーアイデアがあるわけでもなくて。ただやっていく中で、プロトコル自体の進化もどんどんしてますから、そういうシーズも見えてくると思ってます。だから僕らは中にいるものの、ビットコインの進化はむちゃくちゃ楽しみで。今はリアルの決済には使えないようなところではありますが、デバイスが通信帯域の増強でコンテンツの在り方が変わっていったように、同じような進化は起こると思うので。その時に生活者が使っていける、あるいは背後で浸透していくようなものが作れたら良いなと思ってます。


【告知】9月16日、21,Inc.のBalaji Srinivasan氏が来日。WiL、経済産業省、アクセンチュアの共催による日米VCカンファレンス「MOMENT2016」が開催される。a16zなどシリコンバレーを代表するVCが集い、スタートアップの未来について語る内容だ。
MOMENT 2016

インタビュー連載「仮想通貨×事業」

第一回 セレス都木聡 社長 仮想通貨のソーシャルインパクトは計り知れない
第ニ回 DMM 亀山敬司 会長(前編) ビットコインは将来的に化けたらすごい
第ニ回 DMM 亀山敬司 会長(後編) 水族館からモノづくりまで、"なんでもアリ"の先にあるもの
第三回 GMOメディア森輝幸 社長 ブロックチェーンはインターネットに次ぐ"変革"だ
第四回 マネパ奥山泰全 社長 いちはやくマーケットインしている会社でありたい
第五回 マイクロソフト大谷健 氏 日本のロールモデルを提示したい
第六回 さくらインターネット田中邦裕 社長 ブロックチェーンで社会は既に変化し始めている
第七回 インフォテリア平野洋一郎社長 ブロックチェーン推進協会設立のワケ
第八回 WiL久保田雅也パートナー 人類は未知の領域<テレポーテーション>に突入した

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この記事を書いた人

ざきやま(山崎大輔)
ざきやま(山崎大輔)from Cryptocurrency world
ビットコイン専門記者 BTCN編集長
ブロックチェインの可能性を、知的財産の保護やゲーミングカルチャーへ応用できないかと考えてます。
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