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記事番号 013

2014年2月、東京渋谷にあったMt.Gox(マウントゴックス)交換所が民事再生法の申請を行い、4月には再生が断念され、清算手続きへ移行した。

当初公表ベースでは、顧客から預かっていた75万ビットコインと預り金28億円が消失したという。この事件で「ビットコイン」という言葉は日本において一躍知名度を高めることになったが、それは大きなマイナスイメージを伴うものであった。当時多くの人が、「ビットコインが終わった、破綻した」というコメントを出したが、ビットコインのシステムは今でも正常に機能しており、むしろアメリカを中心に普及がより進みつつある。

ここではMt.Gox交換所破綻とは実際どのようなものであったのかを振り返ってみたい。なお、清算手続き、裁判等は継続中であり正確な真実はまだ明らかにはなっていないため、ここで記載している内容は、被害者でもある筆者が裁判資料やビットコインコミュニティーの中で得た情報等を元に推測した内容である点にご留意頂きたい。

Mt.Gox交換所の事業内容

ビットコインはその価格変動差益を狙う、現金とビットコイン間の短期トレーディングが非常に多く行われている。

この取引はビットコインを決済に使うために必要とする人や、店舗などでビットコインを顧客から支払い時に受取り現金に換金したい時などに、必要な量を買ったり売ったりするための流動性の供給源として、エコノミー全体の中で非常に重要な役割を果たしている。これは株式取引でも同じことであり、流動性が十分にあることは、ビットコインが普及する上で重要な要素となる。

Mt.Gox交換所の事業内容は、顧客同士が現金とビットコインの交換を行う場を提供するものとなる。円だけでなく、ドルやユーロとビットコインの交換取引も活発に行われ、Mt.Gox交換所の取引で形成された価格は、ビットコインの世界的な標準価格という役割も担っていた。顧客層は外国人が大部分で、破綻時の口座数12万7千程度のうち、日本人は1,000程度であったと言われている。

外国人は、わざわざ日本の銀行のMt.Gox交換所名義の口座宛に海外送金を行い、取引を行っていた訳であるが、この理由は、ビットコインの交換所が世界的にもごく少数であり、さらに取引が活発で流動性の高い取引所がMt.Gox交換所くらいしかなかったことが理由である。(破綻時点では海外にもいくつか大手の交換所は設立されていた)

取引内容については、例えば、ビットコインを買いたい顧客は、Mt.Gox交換所にアカウントを開設し、銀行送金で円やドルをMt.Gox交換所名義の口座に振り込む。ビットコインの場合はMt.Gox交換所名義のビットコイン口座に送金することになる。そのうえでMt.Gox交換所のホームページにログインすると、顧客には預け入れしている現金とビットコインの残高が表示され、それを元に価格を見ながらトレーディングを行うことになる。

単純にビットコインを買いたいだけであれば、Mt.Gox交換所でビットコインを購入後、自分のビットコインウォレット宛に引き出しを行う(ビットコインを売りたい場合は、売却後の現金を自分の銀行口座に送金するようオーダーを出す)だけで、Mt.Gox交換所内に自分の資産が滞留することはないが、多くの顧客は売買を繰り返していたため、Mt.Gox交換所内に現金とビットコインを預け入れしたままにしていた。

通常株式取引を提供する証券会社は、顧客資産を、顧客毎に口座を分け分別管理することが一般的であるが、Mt.Gox交換所は顧客資産を預かり、Mt.Gox交換所名義の銀行口座とビットコイン口座内に顧客資産をすべて集め、売り買い実行時は外側の顧客管理データベースの上だけで残高の付け替えを行っていた。

これは口座間で実際に現金やビットコインを移動させると手数料が発生するため、それを省くという目的と、そもそも管理体制が顧客単位で口座を分けるようなことに対応できていなかったことが要因と考えられる。

このように、Mt.Gox交換所の事業内容は、ビットコインと円やドルを交換する場を提供するものであり、ビットコイン自体の送金取引やその維持管理とは無関係の、ビットコインシステムの外側の業務を行っていた。

株式に例えるなら、個別企業の株式自体がビットコインシステムであり、その企業の株式を交換する証券取引所がMt.Gox交換所というような関係になろう。そのため証券取引所がトラブルになっても、個別企業は事業を継続可能なように、Mt.Gox交換所が無くなった今でもビットコインは使われ続けているのである。

Mt.Gox交換所の成り立ち

当初Mt.Gox交換所は、Magic The Gatheringというゲームのアイテムを売買する会社としてスタートした。ゲーム内でしか使えないアイテムであるが、入手困難なアイテムを手軽に手に入れたい人は、現金を払いアイテムを購入することを行っており、会社はその交換の場を提供し手数料を得るというビジネスを行っていた。

社名も「Magic The Gathering Online Exchange」(Mt.Gox)という、ゲームアイテム交換所というそのものであった。

2010年7月になると、Mt.Gox交換所はビットコインを交換する場の提供を開始した。当時ビットコインは非常にマイナーな存在で、1ビットコインの価格は1ドルにも満たず、ゲームアイテムの交換に近い感覚で始めてみたものと思われる。ゲームアイテムの交換という電子データと現金を交換する実績のあった当社には、ビットコインは非常に相性の良い商品であったことは想像に難くない。

その後2011年になると破綻時の記者会見を行ったフランス人マーク・カーペレスが経営権を取得、社長を務めることになった。なぜフランス人が渋谷で会社を経営していたのか疑問視する人もいるが、彼は日本のゲームのファンであり、また日本人と結婚していたため都内に居ただけであり、特に日本の規制などが緩かったので日本で事業を行っていたということではない。

Mt.Gox交換所の破綻への道のり

ビットコインの取り扱いを始めたところ、ビットコイン自体が世界中で急激に注目を集め、それまで1ドル以下であった価格が急激に変動し始めた。

2012年末には10ドルを超え、2013年4月には100ドルを超えるまでになった。

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価格が大きく動き出したことで、買い需要、短期売買需要が世界中で急増したが、現金と交換できる場所は非常に限られていた。ビットコインは取引の維持管理作業(マイニングと呼ばれる)に参加する事でも報酬として得られるが、IT知識が必要になるため一般の人には敷居が高く、手軽に現金で購入したいという人が増えてきていた。

そういう状況の中、Mt.Gox交換所は2013年4月にはビットコインと現金交換で、世界の7割の取引量を持つまでに至った。ビットコイン取り扱い開始からわずか2年程度で、顧客口座数、日々の取扱量は激増したのである。

日々の大量の口座開設事務、外国送金を含む銀行振込事務、ビットコイン送金事務と、それまで小規模にゲームアイテムの交換を行っていた会社には、とても耐えられない急激な仕事の増え方であった。以降、入出金の遅延など、オペレーションに問題が度々生じ、ユーザーの間ではMt.Gox交換所は運営に問題があると一部ユーザー間では騒がれていた。

しかし、ビットコインと現金を交換する取引所が限られていたこと、他に設立された取引所はブルガリアやスロベニアなどにあり、海外送金が日本に対しては行い易かったこともあり、外国人を主体とする多くの顧客は運営に問題があるとは感じつつもMt.Gox交換所の利用を続けていた。

このように、Mt.Gox交換所は会社の規模を超える業務量を行いながら操業を続け、一部ユーザーはそれを感じつつも利用しているという、非常に危うい状況となっていた。

Mt.Gox交換所破綻へ

Mt.Gox交換所は、Mt.Gox交換所名義の銀行口座、およびビットコイン口座に顧客資産を集め(顧客資産別の分別管理は行っておらず)、外側の顧客名簿上で残高の付け替えを行うことで、顧客間の売買を管理、出金時に初めて顧客口座へ現金とビットコインを移動させる運営を行っていたと思われる。破綻の原因には様々な理由が考えられているが、最も大きな原因はこの預かり資産の管理方法にあると考えられる。

業務量の増大で内部管理が混乱している中、Mt.Gox交換所はハッカーのターゲットとなった。ハッカーは現金やビットコインを直接狙うのではなく、外側の顧客名簿の改ざんを狙うこととし、これを成功させた。

顧客名簿には顧客名と、Mt.Gox交換所へ預け入れしている現金とビットコイン残高が記載されているわけであるが、この残高を書き換えることにしたのである。

例えば、ハッカーはまず不正入手した銀行口座で残高ゼロのアカウントを作成し、そのアカウントの残高を現金1000ドル、10ビットコイン預け入れ中といった形に書き換えたと思われる。そして、ハッカーは正式な引き出し依頼をMt.Gox交換所に対して行い、Mt.Gox交換所は通常のオペレーションの一環として、ハッカーの口座宛に現金とビットコインを振り込むこととなった。

ハッカーはこれを気付かれない程度の残高で繰り返すことで、結果として大量の現金とビットコインの入手に成功し、Mt.Gox交換所は預かり資産の大半を失うことになったと考えられる。

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破綻の原因として、ハッカーはビットコインシステムの送金バグを狙ったと言われることも多いが、その後の検証などでこのバグではそれほど多くのビットコインは盗まれていないと言われており、現金まで盗まれていることから、直接送金部分を操作されたというよりも、内部管理上の顧客残高を書き換えられたという説明の方が真実に近いのではなかろうか。

通常の事業であれば、様々な形で顧客残高の照合を行うため、仮に一部の残高が書き換えられても、すぐに誤りに気が付くはずであるが、Mt.Gox交換所は急増する業務量で照合などには手が回らず、ハッキングにさえ長期間気が付いていなかったと思われる。

Mt.Gox交換所のもう一つの問題点は、預かり資産の消失に気が付いた時点で操業を停止し、原因の究明などを行うのではなく、その事実を隠し、顧客を欺いたまま操業を続けたことにある。預かり資産が減少したため、顧客からの引出し依頼は大幅に遅延し、また、引出し資産に充当するために、新規に預かり資産の受け入れも行うという自転車操業状態を続けた。

その後、明確な理由の説明も無く一方的な預かり資産の引出し停止を宣言したが、Mt.Gox交換所内でのトレーディング事業は継続し、預かり資産の受け入れを続けた。
そして、操作が疑われるような安いビットコイン価格を提示したため、顧客の中には単なる事務処理の遅延、買い時と考え、追加して現金を預け入れる人もいた。この点については、今後の裁判で厳しく追及が行われることを期待したい。

そして最終的には2014年2月民事再生法申請となった。

当初は民事再生法による会社再建を前提としていたが、大部分の預かり資産の消失と、進まない原因究明、スポンサーとなる適格な企業が出てこないなどの問題から、2014年4月には再生が断念され、清算手続きへ移行となった。

被害について

日本では、Mt.Gox交換所破綻時はニュースで大きく取り上げられたが、その後はメディアでの扱いが急激に小さくなっていった。理由としては日本人の被害者が少なく(12万7千の口座のうち日本人は1,000口座程度)、口座を持っていた人も以下のような特徴を持っていたため、高齢者などを狙った詐欺事件とは明確に異なり、社会的な影響範囲が限定的であったためと考えられる。

  1. 初期のユーザー層であり、英語がメインであったビットコインについての情報を得ているという点で、相応のIT知識、英語力を持つ知識層が余剰資金を投資していた
  2. 登場間もない技術という内容を理解した上で投資をしており、自己責任という認識が高かった
  3. ビットコインのイノベーションを信じており、事件によりマイナスのイメージがつき、そのイノベーションの広がりが阻まれることを嫌ったため、あまり騒がなかった
  4. ビットコイン価格が安い時期に購入しており、大きな含み益を失ったものの、実損額は少なかった人も多い

一方、ビットコインは当時日本よりも外国の方が広がっており、被害額も圧倒的に外国人の方が多い状況になっている。外国人の中にはかなりの実損被害を被った人もおり、また非常に多くの国の人がいるため、日本法に基づいて行われる裁判、残余財産の分配などに困難が予想されている。

顧客資産の預かりについて

高配当などを宣伝し、不特定多数から現金を集める詐欺事件は非常に多く発生してきたため、日本の出資法では銀行や証券会社など特別に規定するもの以外の預り金を禁止している。なお、預り金とは返却を前提としているものであり、払い戻しを認めていない場合は預り金規制には該当しない。

Mt.Gox交換所はそもそもこの預り金規制に抵触していたのではないかと考えられていたが、2014年6月に公表された自民党IT戦略特命委員会「ビットコインをはじめとする「価値記録」への対応に関する【中間報告】」において、以下の考えが示された。

  1. 交換所が預かる利用者の交換資金は、業務の実態として預金と同様の経済的性質を有しない限りは「預り金」に該当しない
  2. 交換目的にて預託を受け、交換所において資金滞留がない場合は「預り金」に該当しない

このガイドラインは、ビットコインの革新的性を評価し、新しいビジネスとして育成していこうという考えで出されているため、資金滞留がない、つまりトレーディング後に交換所から資金を引き出せば規制には該当しないとしている。

ビットコインを現金と交換する交換所業務は、ビットコインの仕組みの外側にあるものの、利用することで現金とビットコインを手軽に交換できること、ビットコインに流動性を与える存在であることから、普及の上では欠かせない存在であり、このガイドラインの示す内容は非常に有用と言えよう。

ただし、二度とMt.Gox交換所のような事件を起こさないためにも、今後交換所には、顧客資産等の適切な管理と、管理状況、保有資産残高の定期的な情報公開、外部監査の実施などが求められる。また,米国NY州では交換所のライセンス制なども検討が開始されており、世界的にもビットコイン交換所の管理レベルの向上は進みつつある。

利用者は、ビットコイン交換所を利用する場合はあくまで自己責任であることを念頭に、トレード後に不要な資産を預け入れしたままにしないように対策を講じて頂きたい。

 

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資料 – ビットコインについて

この記事を書いた人

後藤 あつし
大手金融機関における市場リスク管理、信用リスク管理、流動性リスク管理、バーゼル規制対応等の長年の経験を有する。ビットコインおよびその技術であるブロックチェーンについては初期の頃から金融イノベーションに繋がる可能性を感じ調査・研究を行うとともに、主に金融の側面から関連事業者・団体への助言、各所記事や資料等の作成サポート、BTCNへの寄稿なども行なっている。

連絡先 gotoa123tアットマークyahoo.co.jp