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今の状況を見ると、世界中がブロックチェーンの熱狂に包まれていると言っても過言ではありません。

UBSやRBS、バークレイズ、シティに加え、モルガン・スタンレーやMUFGなど、世界金融の主要プレイヤー22行によるR3ワーキンググループの組成。国内においても野村総合研究所が野村證券、ベンチャー企業数社と提携し研究開発を主導。またOrbやテックビューロといった国内ベンチャーも、ブロックチェーン技術を応用した「Orb1」や「mijin」のような基盤プラットフォームを立て続けに発表しています。

これらは自由参加でき、特定の中央管理機関を介さない通貨システムを作ろうとしたビットコインの本質 ーいわゆる、ザ・ブロックチェーンー とは異なり、他の視点から着想を得た「認可制(Permissioned)」のブロックチェーンですが、なぜこのような発想が生まれたのか、なぜそれが革命的な技術だとして今注目されているのかに関しては、あまり表立って語られていないように思います。

ここでは上述した疑問に加え、なぜ世界のブロックチェーンベンチャーや金融機関がパブリックなブロックチェーンを採用しないのかについて、私個人の意見を述べたいと思います。なお、筆者はビットコイン原理主義者であり、セキュリティや分散システム、金融、法律、社会学またはいかなる特定領域、特定のエンジニアリングに関する専門家ではありません。

ブロックチェーンのパラダイム

ビットコインの最初の革命は、分権的なネットワークにおいて、誰しもが自由に記帳し利用できるひとつのデータベースでありながら、それ自体が価値を持つ何かを個人間で自由に取引できる方法を発明したことにあります。これはコンピュータサイエンス史上、そして金融史上において非常に大きなパラダイムもたらす発明だと言えます。

「それ自体が価値を持つ何か」とは、例えばソフトウェアのライセンスキーやライブのチケット、SUICAの残高、より端的に表すならば、お金のことです。これらを法規制や中央管理なしにパブリックなネットワーク上で流通させることは、ビットコインが誕生するまでの常識では考えられなかったことです。

データに何らかの「権利」を持たせること自体はさほど難しいことではありません。PDF形式の電子契約書に「20yy年mm月dd日変更」とタイムスタンプを含め、電子署名を行えば良いのですから、むしろ誰にでもできる簡単なことです。しかし、その権利を誰かに譲渡しようとした時に大きな問題が発生してしまいます。

例えば、オンラインでAが所有する10,000円の価値を持つ権利をBに譲渡するケースを考えてみましょう。その時、Aは「Bに権利を譲渡します」と宣言し署名を行うことで権利の移転を表現できますが、同時にAはB以外の、Cに対しても同じように宣言することができてしまいます。するとどうでしょう。Aが所有していた権利はBとCのふたつに分裂し、Aは1つの権利で20,000円を得ることができてしまいました。もしかすると、裏でAは他のたくさんの人に販売しているかもしれず、BやCが手にした権利は個人に帰属するものではなくなり、もはや無価値となってしまいます。これが「二重譲渡」と呼ばれる現象です。

二重譲渡を防ぐには規律が必要

 

これを阻止するには、第三者から見てどちらが先に権利を取得したかを検証するための、誰もが参照できる確かな帳簿が必要になります。最も簡単な例は、中央管理機関が権利譲渡の有効性を判断する方法でしょう。しかし、それでは誰もが自由に利用でき、誰にも支配を受けず、永続するシステムにはなりえません。そこでビットコインは、有志の参加者で監視し合い、意思決定に係る過半数が同時に悪事を働こうとしない限り、何が起こっても一貫性を保ち、動作し続ける仕組みを持つ「ブロックチェーン」の概念を発明することで解決しました。世界中の人々がコンセンサスに加わるよう意思決定者の選別、動機付けがデザインされているため、たとえスーパーコンピュータ「京」の計算リソースすべてを使ったとしても、攻撃が成功することはありません。

要するにブロックチェーンとは、「誰の支配も受けず」「攻撃に強く」「安全な」通貨システムを作りたかったビットコインのためだけに発明されたプロトコルなのです。しかし、「ビットコインはブロックチェーンの応用のひとつにすぎない」と主張する人々が少なくないように、その本質的な特徴は、他の多くの分野に影響を与えました。

ここまでのポイント

  • ビットコインは「コンピュータサイエンス」と「金融」の分野に同時に革命を起こした
  • ブロックチェーンは、オープンネットワークで権利を移転するために必要な帳簿
  • 帳簿は特定の機関や組織によって管理されておらず、多数の人々によって分散管理されている

金融機関はブロックチェーンのどこに価値を見出したか

ブロックチェーン自体は、技術的な面で見ると「コンセンサス」「電子署名」「帳簿」の3つの主要素に分けられます。

ここまで機能をコンポーネント化した場合には、金融機関がなぜブロックチェーンという技術に惹かれたのかもわかってくるのではないかと思います。なぜなら、金融機関が行う業務の殆どは、帳簿の上でお金や資産の移転を効率的に行い資産を運用するものだからです。

ビットコインではこの上に「ビットコイン」という中央銀行に依存しない通貨を載せ、価値の流通や貯蔵を目的としてデザインしています。しかし研究が進むにつれ、ブロックチェーンそのものは必ずしもグローバルな「デジタルマネー」の帳簿として使わずとも、土地や不動産の登記や知財権データ、個人情報データ、あるいは金融デリバティブのような「契約情報」を載せられるのではないかと考えるようになりました。

それがスマートコントラクトによる分散型クラウドコンピューティングプラットフォームを作ろうとしているEthereumや、RippleやColored Coinといったブロックチェーン上のオルタナティブトークン発行、TØ、NASDAQのようなスマート債権・株式のための発行管理プラットフォーム、FactomやSiacoinのようなクラウドストレージとしての活用なわけですが、ともかく、金融機関はこれらに共通するブロックチェーンの「プログラマブルな帳簿」としての可能性に着目したわけです。

例えば、R3ワーキンググループの一員であるUBSは、金融機関のバンクアカウント間で利用することを想定した「セトルメントコイン」の開発に着手しています。セトルメントコインのベースとなるのは金融機関のグループ内で利用するプライベート・チェーンで、ポストトレード・プロセッシングを第三者機関なしで直接行うことを目指しています。

セトルメントコインは「コイン」と名が付いているものの、特有の通貨価値を持っておらず市場流通することもありません。オープンアセットプロトコルを用いたカラードコインや、リップルプロトコル上のIOUを想像していただくとわかりやすいかと思いますが、各金融機関はクライアントの市場取引の結果を共通の元帳に載せてやり取りをし、その結果を元に各口座への割振りやセトルメントを行います。

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Fintech 2.0 レポートより

 

精算や決済、ポストトレードに掛かるコストは毎年650億ドルから800億ドルほど掛けられており、コンサルファームのオリバーワイマンはこれをブロックチェーン技術で効率化できると述べています。また、サンタンデール・イノベンチャーズは「Fintech 2.0」レポートの中で、ブロックチェーンを用いることでミドル/バックオフィス業務が効率化され、2022年までに200億ドルのコスト削減が見込めると報告しています。さらに将来的には25兆ドルの経済規模を持つ不動産市場を、スマートコントラクトで置換できる可能性もあると考えているようです。

しかしながらビットコイン・コミュニティの外側で生まれたフィンテック企業や金融機関は、ビットコインなどのパブリック・チェーンにはあまり興味がありません。顧客口座の管理や取引の停止、差し戻しなど、事前・事後にデータベースの書き換えが出来なければ「使えない」ため、認可制(Permissioned)のブロックチェーン(プライベート・チェーン)を検討しているようです。

ここまでのポイント

  • ブロックチェーンには価値情報だけでなく、証券や個人情報、知的財産のような契約情報も載せられる
  • 最も単純なユースケースは、クリアリングハウスの分散化
  • スマートコントラクトはミドル/バックオフィス業務の自動化に利用できる可能性がある
  • その結果、従来のテクノロジーを使うよりもコストを低く抑えられる可能性がある

パブリックとプライベートは土俵違い

はじめに明らかにしたいのは、ビットコインのようなパブリック・チェーンと、パブリック・チェーンの思想から切り離されたプライベート・チェーンとで目的とユースケースがまったく異なるということです。

CAP定理が指し示すように、ひとつのシステムですべてを解決することは出来ません。パブリック・チェーンで出来ることがプライベート・チェーンで出来るわけでなく、またプライベート・チェーンで出来ることがパブリック・チェーンで出来るというわけでもありません。

それを踏まえた上で金融機関のようなエスタブリッシュメントが、ビットコインのような誰でも参加自由なブロックチェーンを採用できない最大の問題とは、1) エンドユーザーをコントロールできないこと、2) コンセンサスに加わる人々のコストが高価なこと、そして3) パブリック・ブロックチェーンがあまりにも遅いことの3つに分類することができます。

1. 利用者のコントロール

まず、第一にグローバル規模で進む規制強化もあり、顧客のKYCや反社会勢力に対する資金供与の防止、詐欺や不正受金を働いた者への制裁措置などが取れないネットワークを利用することへの抵抗があります。

金融サービスがビジネスへの適用を考えた場合には、マネーロンダリングや詐欺の用途でシステムを悪用する者のアカウントを停止したい、あるいは反社会的勢力と思われるアカウントに対する送金を事前に察知し防止したいと考えるでしょう。しかし、パブリック・チェーンでそのような管理権を行使することは不可能です。

2. Proof of Workに潜むコスト

次の問題は、Proof of Workそのもののコストです。ブロックチェーンはそもそもデータベースの保守作業という、電気代とハードウェアを無駄に消耗する行為に対してブロックの発見報酬とトランザクション手数料のふたつの「経済原理」を組み込むことで動機付けを行うようにデザインされています。この作業のおかげで自然と競争原理が起こり、コンセンサスに加わる人々が増加することで、価値の複製や窃取を企てる者がいたとしてもデータベースの一貫性が保たれる仕組みになっているのです。

したがってPoWのコストとは、ブロックチェーンの一貫性を保つために必要な「経済原理」そのものであり、これをゼロに近づけようとすれば同時に「データベースの一貫性」や「検閲への耐性」が失われてしまうことに繋がります。ブロックチェーンをパブリックで運用するのであれば、このコストは必要経費として捉える必要があるのかもしれません。

3. 処理性能の限界

金融サービスにメスを入れ、イノベーションをもたらしたい人々は「パブリック・チェーン」は高いし遅いと考えるでしょう。

一方でネットワークのセキュアさを重視し、中央機関の不在が最も重要だと考える人々にとって、パブリック・チェーンから完全に分離された「プライベート・チェーン」は分散性が保たれないため、つまらないと感じています。

こういった認識の齟齬は彼らの目的が異なるために発生するもので、双方の主張のどちらも誤りではなく自然なものですが、ここでの目的はパブリック・チェーンの弱点を明確にすることなので、原始的なブロックチェーンの処理性能について焦点を当てることにします。

ブロックチェーンの処理性能は、トランザクションそのもののデータサイズと、ブロックの容量、およびブロックの平均発見時間によって定まります。

処理性能(tx/s) = ブロックサイズ / 平均トランザクションサイズ / ブロック平均発見時間(秒)
限界HDD容量(日) = 処理性能(tx/s) × 平均トランザクションサイズ × 86400(一日/秒)

※ビットコインの場合
処理性能(tx/s) = 1,024,000 / 350 / 600 ≒ 4.9 tx/s
限界HDD容量(日) = 4.9 * 350 * 86400 ≒ 148MB

こうしてみると、ビットコインにはいいところが全然ないじゃないかと思われる方もいるかもしれません。FinTechで金融サービスに切り込もうとしている人たちなら、尚更そう思うことでしょう。既存のビジネス・フォーマットでは、パブリック・チェーンの最大の魅力である「中央管理機関の不在」と「何があっても一貫性を保ち動作し続ける」、「合意形成の分散化」という特徴はあまり重要ではないからです。

高いし、遅い。別に、データの一貫性は必要ない。権限はコントロールできた方がいい。ごもっともです。

分散的なエコシステムの形成を至上命題とするパブリック・チェーン(Permissionless)と、特定のビジネス課題を解決する目的があるプライベート・チェーン(Permissioned)では、そもそも土俵が違います。

ここまでのポイント

  • パブリックなブロックチェーンはコストが高く、処理性能に秀でているわけではない
  • スケーラビリティもなく、一切の管理権も行使できない
  • パブリック・チェーンが民衆のためのものだとすれば、プライベート・チェーンはビジネスのためのもので目的が異なる

プライベート・チェーンのエッセンス

一口でプライベート・チェーンと言っても、非常に多くの種類があります。むしろプライベート・チェーンと表現するのもはばかられるかもしれませんが、ここでは便宜上、パブリックではないブロックチェーン全体を総称してプライベート・チェーンと呼んでいます。

ブロックチェーンの分類

Decentralized Token Centralized Token No Token
Public ビットコイン
イーサリアム
サイドチェーン
オルトコイン
Counterparty
Colored Coin
N/A
Consortium サイドチェーン
プライベート・チェーン
プライベート・チェーン
銀行コンソーシアム・チェーン
プライベート・チェーン
銀行コンソーシアム・チェーン
Federated Server
Private サイドチェーン
プライベート・チェーン
プライベート・チェーン
楽天ポイント(via DBMS)
プライベート・チェーン
データベース(DBMS)

いま世界中に存在する殆どのシステムは、右下のPrivate/Permissionedの項に当てはまります。そしてプライベート・チェーンの一部はこれらと競合になる可能性があり、システムの移行コストや運用コスト、処理性能で競うことになるでしょう。もっとも、スマートコントラクトが実現してしまえば、ブロックチェーンは単なるデータベースではなく、アプリケーションとして利用できるようになる可能性も秘めており、単純比較ができないことも確かです。しかし、それでもパブリックではないブロックチェーンを内部で運用するのであれば、アプリケーションとインフラレイヤーは切り離されていた方がいいはずで、ブロックチェーンの優位性が必ずしも担保されるという結論には至りません。

そしてブロックチェーンを単にデータベースとして見た場合には、極めて難しいチャレンジになるでしょう。

ブロックチェーンとデータベース

「ウェブのような大規模分散データを扱うシステムにおいては、分離レベルが緩やかな一貫性を保つように設計されるのが一般的だ。SERIALIZABLEによる高い分離レベルは、魅力的でありながらも、ユーザーの観点では遅く、現実味がない。eBayやAmazonのような巨大なウェブアプリケーションを見ればわかるが、彼らは緩やかな一貫性を採用することで成功し、拡張性に富むことを示している。」 – James Leigh

ブロックチェーンとはすなわち、トランザクションを一時的にローカルメモリへとプールし、一定時間ごとにスペースの限られたコンテナ空間(ブロック)へと記録を行う方法のデータベースです。すべてのトランザクションは承認されたタイミングを以って時系列で記録され、またRead/Writeの機能しか持たないため、トランザクションがロストアップデートによって喪失することもありません。

さらに、ブロックチェーン上に書き込まれたトランザクションのすべては秘密鍵による電子署名に紐付けられており、誰が書き込んだのかを容易に追跡できる特徴が備わっています。これにより、ブロックチェーンを用いることで従来的なデータベースでは難しかった「複数の組織間によるデータベースの共有」を容易に実現することができます。この特性は、データベースに「監査」「透過性」というブロックチェーン特有の機能をもたらしました。

これらはブロックチェーンの、データベースに対する(恐らくは)優位性だと考えられますが、その一方で「ブロックチェーン」の形を保つが故の大きなデメリットも存在しています。例えば、前述したようにブロックチェーンにおけるトランザクションはすべからく電子署名が行われているため、ひとつひとつのトランザクション・サイズが肥大化してしまうことが挙げられます。毎秒1万トランザクションを処理するブロックチェーンがあったとすれば、毎日260GBのハードディスク容量が必要になる計算のため、コスト面で安価だとはあまり言えないでしょう。

そしてより大きな問題は、たとえブロックチェーンでコンセンサスアルゴリズムをいくら強化したとしても、トランザクションの確定にどうしても時間がかかってしまうことが挙げられます。完全にプライベートで運用されているブロックチェーンであれば、そもそもコンセンサスを取る必要すらありませんが、データベースの場合には秒間数十万、数億のトランザクションを処理できるため、比較するのは酷だとすら言えます。また、スケーラビリティの観点でも多少の懸念があります。ブロックチェーンシステムを用いたインフラストラクチャでは、処理性能をスケールさせるにはプロトコル・ベースでハードコーディングし直す必要があり、分散データベースのようにハードウェアを追加するだけでスケールできる設計になっていないためです。

以上のことから、ブロックチェーンは「魔法のデータベース」ではなく、ブロックチェーンの形を保つ限りはどのような形態であったとしても「用途」と「目的」を明確にすることが肝要であり、単なるデータベースや帳簿のリプレースには成り得ないと結論付けられます。

ブロックチェーンの構成要素

何をもってブロックチェーンと呼ぶか、という議論があります。

発行済トランザクションのまとまりを定期的にブロックに格納することで「トランザクションの確定」を表現し、時系列に連ねるデータベースをブロックチェーンとすれば、分散的なコンセンサスは定義の埒外です。分散的なコンセンサスを必要としないのであれば、当然ビットコインのようなトークンも「必須」ではありません。P2Pである必要性すら怪しいところです。また、一元的に管理するのであれば、トランザクションをマシンパワーを食う電子署名でわざわざ暗号化する必要もないかもしれません。

この場合、定義が間違っているためブロックチェーンと呼ぶことができないのですが、それではどの要素が最低限備わっていればブロックチェーンなのでしょうか。これについては、別の機会に。

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この記事を書いた人

ざきやま(山崎大輔)
ざきやま(山崎大輔)from Cryptocurrency world
ビットコイン専門記者 BTCN編集長
ブロックチェインの可能性を、知的財産の保護やゲーミングカルチャーへ応用できないかと考えてます。
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