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 「FinTechの本場はイスラエルにあると思うんですよね。今の金融を作ってきたのは彼らユダヤ人ですから。」 ―― そう語るのは、サムライインキュベート代表取締役CEOの榊原健太郎さんだ。榊原さんは2014年にイスラエルに進出し、現地にサムライハウスを立ち上げた。今現在、サムライ魂を持った日本の起業家を現地に送る支援を行っている。

 ここ数年の間に急激に市場規模を拡大し、少しずつ業界に認知されはじめているFinTechだが、その全貌はいまだ解明されていない。ITと金融が結びつくと何が起こるのか、FinTechによって塗り替えられた私たちの生活はどのように変化していくのか。現代の金融システムの発祥地ともいえるイスラエルに降り立ち、最先端の情報技術に日々触れている榊原さんに、現地の空気感、そしてFinTechに期待していることについて伺った。

何がFinTech?どこまでがFinTech?

──最近、FinTechという言葉を多く耳にしますが、榊原さんはこのトレンドをどのように捉えているのでしょうか。今まで見てきた中で、印象的なスタートアップはありますか?

 実は、FinTechの分野がどこまでFinTechなのかっていう、定義が僕もいまいちよくわかっていないんですよね。何がFinTechなんでしょうか。

──これまで金融機関がやられていたサービスが、IT技術の進歩によって民間に降りてきているというトレンドのことだと思います。例えば、送金、決済、保険、投資、融資など。決済でいえば、クレジットカード関連で今はSPIKEとかいろいろありますよね。

 そうですね。いくつか例を挙げますと、今までは銀行だったり証券会社だったりとか、そういう人たちが間に入ってお金の流れがあったと思うんですね。ですが、今は例えば、保険であればC2Cの保険を作ろうというベンチャーも出てきていて、C2Cでお金をためておいて、誰かが事故があったらそこから捻出するということをやると。元々こういうのは保険の発祥だと思うんですけど、オンライン上でできるようになったというのが、ひとつのブレークスルーだと思います。

 結局、保険会社さんがめちゃめちゃ儲かっているというのは、利用者から大きな利益を取っているという話なので、これは、C2Cでやったほうが安くできるのではないかと思うわけです。

 他に僕が投資したところでいうと、例えば、不動産を買う際のローンの金利を、為替レートや地方間での価格の差異を加味してデータマイニングを行い、自動で適正な金利を算出して、ユーザーにデータを提供するというサービスがあります。いままでは、銀行が提示する金利を見てユーザーは判断していたのですが、それを銀行ではなく、民間のシステムがデータマイニングを行ってユーザーに提示をすると。

 あとは、投資の領域でもC2Cの流れが来ていますよね。投資銀行にお金を預けてプロのトレーダーに運用をお願いをするという、これまでのスキームでは一人あたり3000万からしか預けられなかったんですが、それをもう少し安い金額からできるようにすると。つまり、いろんなプロのトレーダーに少しずつ、人ベースでポートフォリオを組むというイメージです。株を買うのではなく、プロの投資家を選んで、その人達に投資をするというサービスがありまして、これから投資を行う予定です。

 つまり、インターネットが起こった時と同じように、今までとは違うやり方になってきているということですね。ビットコインがまさにそうだと思いますが、間に銀行や証券会社を介す必要性があるのかとか、今までの貨幣経済が正しいのかとか、社会の根本に対して疑問を感じ始めてきていて、取引のコストをなくしていきましょう、という動きが今あるのだと思います。

──これまでB2Cだったのが、C2Cになるということですね。間に特定の企業を挟まなくてもよくなるから、手数料率が下がると。

 ええ、そうです。お金を大量に動かしているトレーダーの人たちとこれまでは接点がなかったんですが、そういう人たちとの接点が持てるようになったり、保険に関しても法律でがっちり決まっていたのが、C2Cで解消されるとか。さっきも言ったように、不動産の金利であるとかが、これまで間に入っていた金融機関をパスすることで、コントロールを受けずに適正な価格で決まるようになりつつあります。

 あとは、どこまでが法律が厳しいのかという点がありますが、例えば銀行ATMの入出金データのような、銀行のかなり大きなデータを利用することもできるようになるんじゃないかと思っています。三菱東京UFJさんなどの銀行も、皆FinTechをやろうとしているんですけれども、彼らのような銀行が持っているデータを使えば、利用者がどういう生活をしているかということが一発でわかると思うんですよ。それを利用して、色々なトレンドを測ったりであるとか、もちろん、広告のリコメンドに使ったりも出来ると思います。

金融を抑えなきゃ世界はとれない

──FinTechのスタートアップさんだと、Dr.Walletというのがありますよね。そこでは銀行の入出金データを管理するというサービスを出していて感心しました。

 あれは、データを引っ張るのはグレーですが、一応OKにしているんですね。引っ張ることができるんだったら、銀行が自分たちでやればいいのにと思うんですがね(笑)。

 一方で、イスラエルではシティバンクがインキュベーションプログラムをやっていて、今、2〜300人くらいのエンジニアを囲っているんです。日本の銀行は恐らく、すべてシステム会社に外注していると思うんですが、それを自分たちで作ろう、自分たちでサービスを作っていこうと考えているのが、日本とは大きく違うところだと思いますね。

 推測ですが、海外大手の銀行さんはいわゆるビッグデータというものをちゃんと認識していて、それを活用してユーザーの利便性や、より格安なサービスを提供出来るということに気が付いているのだと思います。その点では、日本の銀行は自社開発をしていないので、現状かなり危機感を持っているんじゃないですか。

──FinTechに追随するにしても、外注するしかないのが歯がゆい状況かもしれませんね。エンジニア不足に悩まされていると。

 社内にエンジニアはあまりいないと思います。海外の銀行さんにはそれなりにいると思いますが。それでも日本は法律上かなり厳しいので、中々動きづらいとは思うんですけれども。

 それと、金融という側面では、イスラエルに来て実感したのですが、ユダヤ人の方々ってやはり数学が得意なんですよね。フィールズ賞を取っている割合も一番多いですし、そういう人たちが今の証券市場や金融市場を作っていて、その金融市場をベースに、例えばアドテクノロジーのようなサービスの仕組みをつくっているんですね。

──FinTechという分野では、特に数学が重要ですよね。

 そうですね。例えば僕の投資先で、元々リーマン・ブラザーズとかの外資系金融機関の基幹システムを作っていた人がいるんですけれども、彼はゲームの会社を作って大成功したんですね。要するに、結局金融システムというのはロジック、つまり、計算式から導き出した数字がすべてのアウトプットであって、今の経済の基盤になっているので、それを使えたら世界が大きく変わるのではないでしょうか。

 例を上げますと、ECを元々やられていた方がゲーム業界に入ってみると、ECと比較してゲームの設計はかなり簡単だと仰っていて、やはり、ユーザーにECで何かモノを買わせるという部分が一番難しいんですよね。ゲームでアクションさせる方法というのはかなりパターン化されているので、動きを予測しやすい。なので、金融システムで使われているロジックから導き出された大量のデータを、人の行動からお金の流れを予測するのではなく、逆に、お金の流れから人の行動や考え方を予測するといったことに応用できれば、かなり効果的なのではないかと思います。

 僕らは基本的にスタートアップを支援しているので、最終的には上場だとかイグジットだとか、結局のところお金がゴールなんですよ。そういった意味でも、先ほども言いましたがお金の流れを抑えて、人の行動を予測するという部分にはかなり注目していまして。金融を抑えない限り、世の中は取れないのではないかなと思います。

「目に見えない価値」をやり取りするには仮想通貨が最も適している

──サムライインキュベートさんでは何度かビットコインのイベントもやられていますが、榊原さん自身は、今の仮想通貨のトレンドについてどのようにお考えなのでしょうか。

 例えば、サムライハウスのようなコワーキングスペースであるとかのコミュニティ内で、何かしら助けてもらったらコインが貰えて、そのコインでコワーキングスペース内の自販機でジュースが買える。そういったコミュニティ内の仮想通貨というのは結構良いんじゃないかと思いますね。イメージとしては地域通貨に近いんですけれども、よりコミュニティと密接に繋がったコイン。このような形は普通にアリだと思います。

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イスラエル・ビットコインエンバシー/仮想通貨で駄菓子を買うことが出来る

 あとは、最近よく話題になっているような、目に見えない価値をコインであるとか、貨幣にするというのは流れとしてあるのではないかと考えています。Facebookのイイねもそうだと思いますが、それをコインにしてしまう。ありがとうを形にする、みたいな。

──コミュニティの中でのみ流通する通貨ですね。それでいうと、アメリカのBNYメロン銀行ではブロックチェイン技術に基いた独自のコインを発行して、行内で仮想通貨の流通実験を行うといった動きがあります。エンジニアが成果を出したらコインが貰える。そのコインでギフト券やクーポンを買える、あるいは賞与に反映されたりとか。

 はい、まさにそのようなイメージです。僕の投資先にゼロビルバンク(ZEROBILLBANK Ltd.)というのがありまして、シンガポールでIBMの立ち上げをやられていた堀口さんという方が創業したんですが、今、イスラエルで見えない価値のやりとりをするサービスを作っています。

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 今はイイねボタンであるとか、わりかし簡単に感謝を示しやすいツールやシーンがたくさんありますよね。ビットコインもそうだと思うんですが、見えない価値をやりとりするような新しい貨幣経済圏がこのサービスでできるんじゃないかなと。もうひとつのアピールポイントは、ある人を採用しようとした時に、そのポイントの偏差値が高ければ、その人は人間的に優れているのではないか、と判断できる基準。つまり、採用に使う評価指標ということですね。

 現代の評価システムでは、クレジットカードの審査が代表的だと思うんですけれど、過去に払込みが遅れていないかであるとか、個人の履歴を見て評価しているんですが、これはいわゆる信用調査と言われるもので、ネガティブサイドの評価をするシステムなんですね。

 そうではなくて、インターネット上のソーシャルの評価が行えるようになれば、その値の偏差値が高い人はプロアクティブに進められる人だと判断できる。つまり、ポジティブサイドで評価ができるので、利用の幅が広がるのではないかと思っています。一種のパーソナルブランディングの仕組みにしてしまうようなイメージですね。

──それは、色んな所で評価されているものをマイニングして、ゼロビルバンクのポイントに結びつけるということですか?

 ええ、そうです。最近、LinkedInの中でもボランティア経験とかっていうのを重要視しているところが多いんですけれども、そのあたりの評価をちゃんとやる、みたいな。

──それを数値化できたらすごいですね。

 はい。要は、仕事ができるかできないかっていうのはもちろんあるんですが、社会性の高さも重要視されはじめているというのがひとつの傾向としてありまして。なので、社会に対する貢献度、自分の周囲に対する貢献度という今まで目に見えなかった価値を評価に落としこむ。そうすることで、採用や人事評価もやりやすくなるのではないかと思います。

──そうですね、確かにそうだと思います。やっぱり人事とか採用といった部分は会社もかなり神経を使う部分でしょうし。

 そうなんです。いや、山崎さんがはじめてそれに同意してくれました(笑)。そのサービスをやってる方は、なかなか日本では認められなくて、イスラエルではすごく認められているんですけど。

 簡単に仕組みを説明しますと、マイクロコントリビューションと言うんですけれども、色々なありがとうを貯めるプラットフォームを作ろうというのが最初の考えで、例えば、コンビニでお金を払った時に釣り銭が出ると思うんですが、それを募金箱に募金すると。その募金箱をプラットフォーム化しようというのがゼロビルバンクのサービスです。

 例えば、支払いをするときに$32.57だった場合には$33に切り上げて、43セントを募金してしまおうと。実際には事前に閾値を設定したり、もっと小さい小数点以下の端数かもしれないですけれども。そういう考え方ですね。それを、色々なクレジットカード会社さんと提携して、端数を募金した貢献度に応じてポイントを取得出来ると。もしくは、何か記事を書いた時にポイントが貰えるであるとか、それをシェアしたり、されたらポイントが貰えるであるとかですね。

──なんというか、パッと聞いた感じですとビットコインにすごく近い考えというか、まさにビットコインが目指しているところなんじゃないかという印象を受けました。

 そうですよね。まさにビットコインがやろうとしていることで、なので彼も今、色々と試行錯誤していて、イスラエルにはそういう会社がたくさんあるので、提携して広げていこうと考えているみたいです。

 実は、この仕組みって攻殻機動隊の中であるんですよね。敵の悪いやつが銀行のシステムにハッキングをして、顧客の口座の利息から出た端数を全部自分の口座に集めて何兆と稼いだっていう描写があったと思うんですが、それを能動的に、合法的にやるというイメージです。多分、1円とか道端に落としちゃっても拾わない人っていると思うんですけど、そこをしっかりと利用しようと。

 ちなみに、唯一商業ベースで端数を切り上げて利用する事業が成り立っているマーケットっていうのが、イスラエルなんですね。ローカルのクレジットカード会社がそのスキームを提供していまして、例えばそういうところと提携してやるというのは考えられるのではないかと思います。

 

イスラエルのFinTech・ビットコイン事情

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イスラエルの風景に溶け込む/ビットコインエンバシー

 

──ビットコインの業界的に、イスラエルは隠れた中心的な立ち位置にあるんじゃないかと僕は勝手に思っているんですが、実際のところどれくらいの感度なのでしょうか。

 やはりマーケットが緩いので、ビットコインをやっている人は多いですね。Omniの人たちもいますし、サムライインキュベートのコワーキングスペースのすぐ横にビットコインエンバシーがあるんですよ。そこにビットコイン関連の人たちがわさわさと集まってきて、いつも色々な話をしています。

 そこにはビットコインの価格が表示される電光掲示板もあって、街なかを歩いていると普通にビットコインの価格が目に入ります。目の前が証券会社で、色んな銘柄の価格が流れているんですが、その反対側ではビットコインの価格が流れているという、不思議な光景です(笑)。

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ビットコインエンバシーに立ち寄るといつも人がいる/ 左からIsraeli Bitcoin Association ChairmanのMani Rossenfeld氏、Bits of Gold CEOのJonathan Rouach氏

 

──おお、やっぱり日本とは全然違いますね。スタートアップの数はどのくらいいるのでしょうか?

 ビットコインはちょっとわからないんですが、FinTechのスタートアップはかなりいますよ。ピッチイベントとかに行っても、10社がピッチをしたら3社はFinTechですね。

──昨年FinTech業界には1.4兆円の投資が集まって、2012年から比較すると5倍の規模ですよね。今年は業界的にも、さらに伸びるのでしょうか?

 伸びると思いますよ。最近、日本の大手の銀行さんはFinTechとかまったく関心がないかなと思っていたんですが、そうではないことがわかりました。先日も講演させていただいたんですね。三菱東京UFJ銀行さんとか、りそな銀行さんとか、結構関心があるみたいです。

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Accenture Strategic Reportより、年間投資規模の推移

──なるほど、やはり規制緩和の影響ですか。

 やべー、なんかやらなくちゃみたいな(笑)。

 なので、業界的に大きな転換点が来ているのは間違いないと思います。今までの貨幣価値っていう概念を覆したりとか、今まで価値として捉えられなかったものが価値になったりですとか、C2Cの流れもそうですね。あとは、例えばシェアリングエコノミーというのがありますけど、あれも同じ流れの中にあるものだと思っています。

 最近だと、エアークローゼットが月額固定の価格で服が何でも何回でも着放題というサービスをやっておりまして。今、かなり流行ってるんですよ。なのでそういう、基本的にシェアして安くしようっていうのが、インターネットが普及したおかげで出来るようになっている。色んな取引コストがどんどん安くなっているんですね。

 SPIKEさんもやられていますけれども、販売手数料・取引手数料は最終的に極限までゼロに近づいていくんじゃないかと思っています。それで、先ほど申し上げたように、ユーザーのお金の流れをみて、それを広告配信のデータとして活用すると。twitterとか、googleがそうですけど、データ販売でお金を儲けるみたいなモデルになるのではないかと思っています。

 なので、これからは取引を仲介してプラットフォームで儲けるようなB2Cのビジネスは難しくなってくると思います。証券市場はまだまだ儲かるモデルがあると思うので、なかなかそうはならないと思うんですけれども。

──手数料がゼロに近づいていくに従い、既存の仲介ビジネスは金融に近づいていかなければならなくなりますよね。そこをFinTechがやると。

 正直なところ、まだどこからどこまでがFinTechですというのが明確に定義されていませんし、現状、言葉だけが先行しているというのが印象としてあります。ただ、少なくとも僕は、FinTechのような今のトレンドの本場はイスラエルにあると思っています。今の金融を作ってきたのは彼らユダヤ人ですから。

 結局、僕がイスラエルに注目して進出した理由もそこにありまして、誰がそういう仕組みを作ったのかとか、誰が金融を動かしているのかを知りたいと思ったからなんです。ロスチャイルド財閥とロックフェラー財閥とかあるじゃないですか。そういうところが本当に世界金融を牛耳っているんだろうかとか、歴史からしっかりと学んでいきたいと思っていて。それで、イスラエルへの進出を決めました。

 今はもしかしたらそういう構造があるから、今みたいな世の中になっているというか。結局、今の経済ってお金持ちがお金持ちになるモデルなわけじゃないですか。結局のところ、本当のビジネスのプラットフォームは証券市場とか、金融にあると思うんですよ。なので、金融が今どうなっているかを把握して、そこをどう変えていけるのだろうかと、しっかりと考えていくことが重要だと思ってやっています。

 ビットコインがまさに、そこを変えようとしているのかもしれませんが、それが本当に実現すれば、もっと違う世の中になるのではないかなと。覆してしまったら本当はダメなのかもしれないですけれども、もうちょっと平等な世界になるのではないかと思います。

(インタビュー取材・文:山崎大輔 協力:ZEROBILLBANK Ltd. 堀口純一)


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金融はイスラエルからはじまる/右手に見えるのが証券会社、左手前はビットコインエンバシー

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この記事を書いた人

ざきやま(山崎大輔)
ざきやま(山崎大輔)from Cryptocurrency world
ビットコイン専門記者 BTCN編集長
ブロックチェインの可能性を、知的財産の保護やゲーミングカルチャーへ応用できないかと考えてます。
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