LINEで送る
Pocket

btcn-interview-sharp1_4
2014年12月、国民的アプリとなったLINEがまったく新しい決済サービス「LINE Pay」を打ち出した。クレジットカード決済はもちろんのこと、送金や換金が行えるサービスというのは前例がなく、非常にチャレンジングなサービスとして大きな注目を集めた。LINE Payが目指すのは、スマホによる最高の購入体験。徹底してユーザーのコミュニケーション体験を向上させてきたLINEは、決済の世界にどのように切り込んでいくのだろうか。

「インフラとして事業者のみを向いた決済は終わり、ユーザーにとって使いやすい決済サービスを構築するフェーズにきている」

そう語るのは、ウェブペイ創業者であり、今年2月よりLINE Payの開発チームに参加している久保渓さんだ。スマホの爆発的な普及により、インターネットの影響範囲は現実世界にも及びはじめ、それは、決済の在り方さえも大きく変えようとしている。これまでシンプルなクレジットカード決済システムを構築しEC事業者に提供してきた久保さんに、今、決済の世界に起こっている変化についてお話を伺った。

久保渓(くぼ・けい):WebPay創業者、LINE Pay株式会社
1985年長崎県生まれ。シリアルアントレプレナー。高校卒業後、アメリカの大学へ進学し、政治学とコンピュータサイエンスのダブルメジャーを取得。そのままシリコンバレーの中心地、サンノゼでウェブホスティングサービスfluxflex, Inc.を創業。2013年、開発者フレンドリーなシンプルなEC向けクレジットカード決済システムを提供するウェブペイ株式会社を創業。2015年2月、ウェブペイ株式会社はLINE Pay株式会社の完全子会社化、LINE Payの事業開発チームに加わり、現在に至る。

LINE Pay:Apple Payに続いて現れた超新星

――昨年12月に発表されたLINE Payの仕組みはとても衝撃的でした。BTCNでも考察を書かせていただきましたが、何故あのような革新的な仕組みを作ることができたのでしょうか。

 弊社では、ユーザーの皆様にとって使いやすいサービスとは何か、わかりやすいサービスとは何かという点を重視しています。そういったところで、貨幣価値があるものを送れる、気軽に送金できる、割り勘ができるというのが元々の構想として明確な形で有り、それを実現するための術として、今の形に至りました。

――コミュニケーションの中での価値のやり取りを重視しているのでしょうか?LINE Payを使うことで何か、新しい経済圏のようなものができるのでは。

 特殊な環境下で使っていただくというよりも、日常生活の中で使っていただくことを想定しています。いきなり友人間でお金のやり取りができるようになったからといって、何か新しいことが起きるということは想定してません。今までの生活の中であったこと、割り勘をしようとか、貸したお金をここに振り込んでねとか、日常の中での問題解決をLINE Payがしています。

――法的な面もありますが、今まで出来なかった価値のやり取りができるようになったことは非常に素晴らしいことですね。これは、御社だからこそできたことなのでしょうか。

 弊社だからこそ、安心して使っていただけると考えています。そのためにも資金移動業者として認可を受け、法令遵守に力を入れることで、ユーザーの皆様を安心させられるよう責任をもって取り組んでいます。

――LINEが決済、送金事業を始めたことで、他のIT企業が追随し競合になるということも考えられますよね。ずばり、LINE Payの強みとは何でしょうか。

 私たちの事業は、キャリアや端末を選びません。日本以外にもアジア諸外国、台湾やタイに関しても、スマートフォンを持っている方のかなり多くの方々が既にLINEを使っており、親しい人同士の繋がりが構築されています。そのため、普及のハードルが他のサービスや事業者と比べてかなり低いですし、私たちが持っているスキームや、元々持っているバックボーンを活用することが出来ます。そのため、ユーザーや加盟店を増やすことに注力できることがLINEの大きな強みです。

 また、競合に関しても特に意識していません。私たちが見ているのはユーザーであり、ユーザーに対して価値を提供できるかどうかを最も重視しています。ですから、まずは決済や送金のようなサービスを普及させ、日常のお金周りの問題を解決しユーザーに価値を提供できるか、という部分に対して真剣に取り組むことが重要だと思っています。

――今の時点で、LINEの国内ユーザー数は。

 5,800万人の方に登録していただいております。

――5,800万人が登録しているというのは驚きですね。LINE Payの想定ユーザーは10-20代の女性なのでしょうか?加盟店にはzozotownやshoplist、Frilなどファッション系ECが多いですが。

 初期の加盟店は絞らせていただきましたが、LINEサービス自体はどこかにターゲットを絞っているわけではありません。5,800万人もいれば偏りが出るということもないですし、既に日常的なインフラになっています。そのため、決済のインフラとして多種多様な方に日常的に使っていただけるよう、フラットなポジションを理想として目指しています。

今の決済事業者に求められているのは「購入体験」の向上

――以前、「インフラとしての決済は終わり、コンシューマ目線の決済が重要になる」と仰ってましたが、具体的に、どのような変化が起こっているのでしょうか。

 その話を厳密に定義しますと、事業者のみを向いて決済事業をやっていくのが時代として終わったと私は考えています。特に、スマホを中心としてサービスを提供する場合には、決済が出来る・出来ないではなく、使いやすいかどうかというところがとても重要になってきます。

 例えば、5秒間の待ちが発生するだけで離脱してしまうほどに、気持ちが変わりやすい方がユーザーになっているわけです。私自身も、ユーザー目線ではそう感じます。PCではあまりそういう傾向にはないのですが、スマホユーザーというのは、少しでもイラッとすると離脱してしまうくらい、購買のモチベーションがすぐに変わります。

 なので、PCからスマホに移っていくという大きなトレンドが明白になり、今後スマホがECや決済の重要なポジションを取る場合には、そこに力を入れていかなければならない。その時にはただ単に事業者向けサービスを提供するのではなく、コンシューマの人々にとって「心地よく、簡単に使える」というところをしっかりと突き詰めていかなければならないというのが、決済事業者の責任として、今後ますます強まっていくのではないかと考えています。

――機能や手数料だけでなく、エクスペリエンスが重要だということですね。

 もちろん価格や機能も大事ですけれども、プラスアルファとして購入体験全体を決済事業者の方からモデルを設計し、提供していくことがとても重要だと思っています。

――例えば、どのようなところを重視しているのですか?

 何をするにしても「銀の弾丸」、これをひとつやっておけば他はやらなくてもいいということはありません。

 目線として「スマホの購入体験を向上させる」という思いが主軸にあり、そのためにあらゆることをやると決意したのがLINE Payという会社です。なので、決済の待ち時間を減らすというのももちろん重要ですが、それだけでいいかというと、決してそんなことはありません。

 全体として、すべての体験を向上させることが、ユーザーに価値を提供するということだと思います。

――銀行振込、クレジットカード決済に次いでビットコインのような決済ネットワークが現れました。今後このような新しい決済システムを導入していくことは可能性として考えられますか?

 いま、LINE Payではクレジットカードに加え、残高のチャージという意味ではコンビニエンスストアでのチャージ、銀行接続としては三井住友銀行とみずほ銀行の2行に繋がせて頂いています。ペイジーでのチャージも可能です。つまり、既に多種多様な決済手段、資金移動手段を設けているので、何か特定の決済手段を増やすことに重きを置くことはありません。

 ユーザーが使いやすいように、LINE Payが決済全体の体験を再構築する。つまり、ユーザーが望んでいるのであれば、LINE Payがそれをしっかりと提供していく。コンビニエンスストアが良い例だと思いますね。

 現在提携させて頂いている三井住友銀行、みずほ銀行の2行に関しても排他的にやるということでなく、ユーザーがより使いやすいサービスにすることに焦点を当てています。決済先等連携機関に関しても、便利になる仕組みになるのであれば拡大していきたいと考えています。

――銀行とIT企業が組んでやるということは今まで考えられませんでしたよね。

 そうですね。私たちはもちろんやったことがないですし、銀行もやったことがない事業なので、そこをどうやって同じ方向を向いてやっていけるかは、重要なポイントだと思います。

――将来的な見通しは。決済の移り変わりをどのように捉えているのでしょうか?

 弊社の考え方として、3ヶ月以上先は予測・計画立てしておらず、2年後3年後のことはほとんどと言っていいほど考えていません。

 ただ、スマホが決済として、日常のお金になっているという大きなトレンドが起こっており、情報の置換が起こっているという点は重要です。単にPCの置き換えるのではなく、オフライン店舗などの決済にも影響が及び始めています。スマホがますます重要な世界になりつつある今、誰が世界を良くしていくのか。そこを突き詰めていくことが、非常に重要な点だと思います。

 例えばスマホアプリであれば、「使いやすさ」や「心地よさ」が追求されて価値として認識され始めています。一方で、決済の領域でそれが提供されているかというと、「できる」か「できない」という部分で停滞している傾向にありました。決済ができていればいいという認識があり、使いやすいか使いやすくないかは判断しにくい部分で、よくわからない。価値の判断はできないというのが、これまでの状況でした。

 これが、徐々にパートナーが参画していくことによって、「使いやすさ」や「心地よさ」といったものが、ユーザーが購入するか否かの価値判断になり始めています。その中で「加盟店や事業者の売上拡大に繋がるキーになる」ということが重要な価値認識として生まれつつあり、そこに大きな価値があると思います。

2015年は重要な転換点

――LINE Payのチームに加わった後、久保さんはどのような仕事をされているのでしょうか。ここだけは自分がやる、という部分はありますか?

 私が、ということではなく、同僚やチーム、銀行等外部のパートナーなど、ビジョンに共感し賛同する人々が集い、皆でよくしていくことに価値があります。例えば、スマホを中心としてお金周りの問題が解決していくことに対して、自分の人生がもっと良くなると思えるか。この点でいうと、自分の人生にインパクトがあると思える人はたくさんいるんですね。

 何故かというと、お金というのは非常に日常と密接に関わっている。使いやすいか使いにくいかという部分は、日常生活の中で非常にインパクトがあり、そこを改善しなくちゃいけない。

 今、2015年がそういうことを改善する、業界的にも良いタイミングなんです。

――2015年が良いタイミングだと言うことですが、何故そう考えているのでしょうか?

 これまで30年にわたって、クレジットカードを含め業界はほとんど変わっていませんでした。業界的には変わらなかったことが普通で、ある時点から一年後はほとんど同じ、二年後も同じと、徐々に変化していくだけでした。

 また、決済事業をやっていく中で色々な話を聞く機会も多いのですが、「今は10年に一度の変革だ」や「30年に一度の変革だ」と仰る方がとても多くおられます。キャリアでかなり重要な位置にいる方々が、今は変革が起こっていると考えており、既存の事業者も危機感を持ってやられているようです。

 決済事業は、通常であれば一社でやることはできず、パートナーが必ず必要な事業です。なので、協力者を募り、一緒にやっていただくためには、問題意識を抱えている方に対して、問題解決を現実的に実現できるような温度感やタイミングが必要です。

 今がまさにそのタイミングであり、新しいことに挑戦する門戸が開かれています。もちろん、業界全体にも開かれており、既存の事業者もしっかりと問題意識を持って改善していこうとしている。このような状況を受け、キーマンとなる方々も実際に動き始めているため、協力して事業を行うことが出来ています。

――既存金融機関の方々も問題意識を持ってやられているのですね。何故、そのような危機感を持っているのでしょうか。

 ウェブペイのような新しいサービスが出てきたことや、新しいことをやり始める人たちが増えたというのが要因のひとつとしてあります。

 実際によく言われるのが、ジェフリー・ムーアの「トルネード」。トルネードが起こる瞬間は誰にも予期することはできませんが、起こってしまうとその市場の変革が一気に起こってしまう。今で言うと、スマホという大きなパラダイム・シフトが起こっていて、決済でもそのような多種多様な手段が作られています。手数料やサービスの提供方法、UIが重要視されていることなど、非常に大きなパラダイム・シフトが起こっています。

 そういった複数のパラダイム・シフト、複数の「トルネード」が今、決済業界に訪れている。それがスマートフォンによって増幅させられているというのが、非常に大きな業界認識としてあります。

――金融の規制緩和もありますし、金融はそもそもが情報。FinTechに色々な人たちが可能性を見ているのは、そういうことなのでしょうね。

 はい。なので、積極的に打つ手を講じ、勇気を持って前に進まなければならない。そういうことを考えてやっております。

仮想通貨はありかなしか

――個人的なお考えをお聞きしたいと思います。ビットコインなどの仮想通貨についてはどのように考えているのでしょうか?

 海外ではビットコインのプリペイドカードを発行するサービスや、リップルのゲートウェイ間での通貨変換、似たようなコンセプトだとステラーのような仕組みがあり、環境が整っていますよね。暗号通貨はこれから、通貨とネットワークという側面がそれぞれ分離されていき、通貨の側面ではビットコインなどが、ネットワークの側面ではリップルやステラーが担っていくであろうという点で、興味があります。

――やはり決済事業者としてずっとやられていた久保さんとしては、注目のテーマなのでしょうか。

 個人的にはビットコインやリップル、ステラーは好きです。情報も追っています。

 リップルやステラーはネットワークを改善する可能性があり、リップルネットワーク上でビットコインや円などを送り合えるというのが概念として面白いと感じています。伸びる、伸びないかは度外視するとしても、純粋な興味の対象として、通貨や決済、送金などのひとつの概念的な存在だと思っています。

――今後、決済の在り方が変化していき、既存のものや新しいものが混在していくのではと考えています。仮想通貨が普及し一般に使われるようになる可能性が仮にあったとして、導入するということはあり得るのでしょうか。

 現状、可能性についてまったく検討していないので、特別どうこうしたいという考えは持っていません。技術に対するアレルギーもないので、暗号通貨への距離感であるとか、基本的なスタンスというものは決めていません。

 それで、かなり重要なことだと思うのですが、暗号通貨が比較的盛り上がっているアメリカのUSドルというのは、アメリカを信用できないUSドル経済圏であるとか、英語が話せないUSドル経済圏があるんですね。つまり、「通貨」「国」「言語」という3つの要素がオーバーラップしていないので、その隙間に対してビットコインが入り込む余地があると思います。

 一方で、日本の場合は「日本円」「日本」「日本語」という3つの要素がほぼオーバーラップしているので、全体として通貨に対する信頼が非常に高い。私自身としても、この基盤になっている国や言語といったものが自分自身のアイデンティティとしてしっかり繋がっており、日本円に対してとても信頼を置いています。なので、そこに対してオルタナティブを必要とするメンタルには今はありません。

 日本とアメリカの大きな違いとしては、その3つの要素がオーバーラップしているかしていないか。アメリカではUSドル経済圏におらず、英語をまったく使っていない人でもUSドルを使っているので、日本の場合とは大きく状況が違います。それほど怪しい技術ではないと思っていますが、現に、日本では使われていませんから。

(取材・文 山崎大輔)

  • ビットコインニュースを毎日お届け!

  • BTCN公式アカウントをフォロー

    follow us in feedly
シェアする

この記事を書いた人

ざきやま(山崎大輔)
ざきやま(山崎大輔)from Cryptocurrency world
ビットコイン専門記者 BTCN編集長
ブロックチェインの可能性を、知的財産の保護やゲーミングカルチャーへ応用できないかと考えてます。
monacoin:MTn7hiNovBHyN7gjtvD1Hh7W96Zmghp41B
bitcoin:1NK8S4ep9ZUZ9H9AmTAfvrCVVAKLbpmi36