2017.12.08 (Fri) column

Segwit2Xの死後:クリプト・オーストリアンとクリプト・ケインジアンの離別

Written by Jimmy Song

Jimmy Song氏はビットコインの開発者で起業家。2013年より開発に参加しながら、「Off Chain(YouTube)」「Bitcoin Tech Talk」を主催、精力的に情報発信を行う。またブロックチェーン開発者の育成を目的とし、「Programming Blockchain」を開講している。本記事は、ビットコインのスケーラビリティ問題の根底にある要因について、同氏がブログで執筆したものを翻訳した。


ビットコインのエコシステムのスケーリング問題は3年間の論争の末、ついに終焉を迎えました。ビットコインのコミュニティでは議論に議論が重ねられました。そこには何があったのでしょうか。

この数年と数ヶ月の間に書かれた多くの記事を読めば、時系列を追って何が起きたのかがわかります。もしこの問題に馴染みがなければ、こちらも参考にしてください。この記事では、問題を取り巻く一連のドラマが何を意味していたのかを解説していこうと思います。

壮絶な別れ

2Xハードフォークの下に集結したコミュニティは、11月10日にハードフォークを破棄する形で、みずからブロックサイズ・ディベートに終止符を打ちました。争いは、突如として終わりを告げられたのです。

この数年間、ビットコインコミュニティは2つに分かれ独立し、開発やフォーラムも独立して運営されており、ついにはブロックチェーンが分岐するに至りました。しかし、コミュニティは初めから分裂していたわけではありません。2013年まで遡ると、コミュニティは一致団結してフィアット(法定通貨)に対抗心を燃やし、ビットコインを次の段階に引き上げるための展望を語り、機能を実装することに興奮を覚えていました。あれから4年後の今、コミュニティは分裂し、私たちはビットコインに何が起きたのかを再考させられることとなりました。

少なくとも、目下の問題はブロックサイズの引き上げです。より詳しく言えば、オンチェーンスケーリングをある程度可能とする、ブロックサイズ引き上げのハードフォークです。壮大な計画の下では、この程度はなんら問題がないように思えます。ですから自問しなければなりません。なぜ、この問題が壮絶なコミュニティの分断に繋がったのかを。本当の問題とは、何だったのでしょうか。

経済学

一切の知的影響とは無縁であると信じる実務家も、通常は過去の経済学者の奴隷である。権力に胡座をかき、天の声を聞くと宣う狂人も、三文学者が数年前に残した錯乱した考えをなぞっているにすぎない。

これは、名高い経済学者の一人、ジョン・ケインズ氏の言葉です。私があえて彼の言葉を引用した理由は、この言葉が今回のスケーリングに関する議論に強く結び付いていると考えているからです。つまり、ここ数年の本当の衝突の原因は、「技術的な問題」というよりも「経済的な思想」の不一致だったのです。

本題に入る前に、2つの異なった経済学の理論を紹介することにします。はじめに紹介するのは、上記の経済学者の名前から名付けられたケインジアンです。二つ目は、前世紀に活躍した、オーストリアを中心として誕生した経済学派から名付けられたオーストリアンです。

ケインジアン経済学は、マクロ経済を重視し、お金とモノが移動している状態を維持することに注力します。ケインジアンにとってドルの量とお金の流通速度に比べると、何が移動しているかは重要ではありません。

GDP(国内総生産)などのマクロ指標お金の流通速度が、ケインジアンにとってはより重要で、どのようなモノが移動し、どのようにお金が使われているかは、さほど重要視されていません。そのため、ケインジアンは、消費者のモノやサービスに対する消費意欲の強さを計り、お金がどれだけ早く経済に循環しているかを注視します。

一方、オーストリアン経済学は、経済をミクロの視点から観察し、何が富を築くのかに興味を注ぎます。貯蓄と良い投資が最終的に我々の生活の繁栄をもたらすと考えており、ただひたすら取引を行えばいいという考えはありません。無計画の投資と過剰な消費は、経済の悪循環を作り上げるためにも避けるべきだというのが、オーストリアン経済学の主張です。

この2つの経済学は、今回のコミュニティの分断に至った出来事を説明するにあたり非常に有用です。とはいえ、これから私が説明することの一つ一つが、今回起きた出来事と辻褄が合っていることを意味するわけではありません。

クリプト・ケインジアン

ブロックサイズの上限について、あなたはビットコインのお金としての流通速度にも限界があると考えるでしょう。クリプト・ケインジアンはお金自体の安全性よりも、お金が経済により早く循環していることを重要視している人びとであると定義します。

クリプト・ケインジアンからすれば、これは大問題です。彼らは、経済成長のためには通貨の流通速度を早めるべきだと考えているからです。ブロックサイズを引き上げることでビットコインを利用した消費活動を促すことが彼らの目的です。これが彼らの考え方を理解するうえで重要な鍵となります。

クリプト・ケインジアンは、経済におけるビットコインの流通速度が上昇することで、ビットコインの有用性が上昇すると考えています。もしその速度が限定されているとすれば、彼らはこう考えるでしょう。「ビットコインの成長は限界を迎える」と。

言い換えれば、クリプトケインジアンの経済学の観点において「お金の価値は交換媒体としての機能にある」と考えているため、その流通速度に重点をおいているのです。

クリプト・オーストリアン

クリプト・オーストリアンについての私の定義は、お金の価値を貯蔵するための安全性がビットコインの有用性だと考えている人びとです。

クリプト・オーストリアンは、「価値の貯蔵手段」としてのお金の機能の安全性を確保することに重点を置いており、モノを消費するための交換媒体としての機能を重要視してはいません。もしハードフォークがビットコインの安全性、永続性、代替性を脅かし、価値の貯蔵手段としての機能を脅かすのであれば、ハードフォークを行う価値はないと彼らは考えます。

すなわち、クリプト・オーストリアンにとって、「価値の貯槽手段」としての機能は何を犠牲にしてでも守るべき性質なのです。開発チームの変更であれ、ネットワークの分岐であれ、ウォレットなどのソフトウェアに悪影響を及ぼし、今まで積み上げてきた価値を失う事態が発生する可能性があるのであれば、彼らがそこに価値を見出すことはありません。

衝突

このように考えると、ブロックサイズの引き上げに関する議論は、技術的な考え方の対立だけでなく、両者の経済学的な観点の相違にもあったことがわかります。技術的観点から、ハードフォークはソフトフォークより危険です。経済学的観点において、私たちは「価値の貯蔵手段」としての機能を犠牲にして「交換媒体」としての機能を拡張するハードフォークについて多くの議論を交わしてきました。

クリプト・ケインジアンは、「交換媒体としての機能」の向上が、ビットコインの有用性の向上と利用可能領域を広げる上で重要だと主張しています。

クリプト・オーストリアンは、ビットコインの安全性とのトレードオフが起こることに価値がないと考えているため、交換媒体として機能向上に価値を見いだせないのです。特に開発チームの入れ替えに反対をしています。

企業 VS HODLers

企業が成功するには大きな収益を上げる必要があります。ビットコインの送金機能の制限は、送金システムを扱う企業にとって死活問題です。そのため、ほとんどの企業はクリプト・ケインジアンのポリシーを支持しています。ビットコインを利用した取引が増えることが企業の利益に繋がるからです。

さらに、ビットコインのブロック内のスペースの大半はこのような企業によって使用され、顧客の取引量と彼らの収益性には大きな相関関係があります。取引手数料を引き下げ、顧客に多くの取引を行ってもらうことが彼らには望ましいことなのです。

大多数の企業がニューヨーク合意に署名したことは驚きではありません。彼らには、クリプト・ケインジアンのポリシーを支持することで、自身のビジネスを有利に進めるという動機がありました。交換媒体としてのビットコインの機能を主に利用するユーザーにも同様の動機がありました。

一方、HODLers(長期保有者)は、取引におけるビットコインの利便性をさほど気にしません。このようなユーザーは、ビットコインを取引の交換媒体として使う頻度が少なく、ブロック内のスペースをほとんど使用しません。

HODLersにとって、保有しているビットコインの価値が保たれていることが重要であるため、クリプト・オーストリアンを支持する動機がありました。ニューヨーク合意がなされた時、Hodlersの意見を主張するための場はほとんど設けられませんでした。その後、HODLersがニューヨーク合意に対して、抗議を始めるに至ったことは必然であったのかもしれません。

その後のビットコインの市場動向や「No2X」ムーブメントは、HODLersがビットコインの経済圏の中では大衆の声であったことを示しています。

終わりに

ビットコインのコミュニティ内の争いはついに終焉を迎え、それぞれのコミュニティは別の道を歩むことを決断しました。そして今は、ビットコインとビットコインキャッシュという2つの異なるブロックチェーンが存在します。この2つを隔てていたものは、本質的には経済哲学の相違でした。

企業やビットコインを日常的な取引に利用するユーザーは、ビットコインの「取引の交換媒体としての機能」を重宝していました。彼らは、ビットコインのブロックサイズを引き上げられず、取引手数料の割高感に不満を抱えていました。

HODLersはビットコインの「価値の貯蔵手段としての機能」を重宝しており、ブロックチェーンをほとんど利用してきませんでした。彼らは、ブロックサイズを引き上げるためのハードフォークによる、ビットコインの安全性の低下を懸念していました。

今回の議論の根底にあったのは、お金が果たす役割の考え方の不一致でした。
「取引の交換媒体としての機能」と「価値の貯蔵手段としての機能」のどちらが、お金にとって重要なことなのでしょうか。この質問に対する正しい回答を、科学的に証明をする道はありません。しかし、私たちは答えを出すもう一歩の所まで来ていたと感じています。

どちらの経済理論が正しかったのかは、2つのコミュニティの今後の成長を見守ることで明らかになるでしょう。一方はより多くの取引を行うためにお金の流通速度を上げましたが、新たな開発者は経験に乏しく、以前よりその安全性が低下するかもしれません。もう一方は交換媒体としての機能に多少の不備はあるものの、全ての過去のデータと互換性があり安全性も高く、すでにその技術を証明された開発者達がついています。

私は両方のコインの幸運を願います。そして真実が明かされますように。


Jimmy Song Blog


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