2019.01.17 (Thu) column

通貨の歴史から「Sound Money」の重要性を紐解く 通貨安への対抗策としてのビットコインの存在意義

Written by 真田雅幸

ビットコインユーザーがStore of Value(価値の保存)やHODLなどの言葉よく使うのは、ビットコインが金(ゴールド)を進化させた「Sound Money」として作られた暗号通貨だからだ。Sound Moneyは主にオーストリア経済学派のリバタリアン的な考え方から生まれた概念だ。個人の趣向性を写す市場によって選ばれるモノであり、特定の権力者の意思により供給量が変更されることがないお金がSound Moneyと呼ばれる。

オーストリア経済学派の間では、供給量に限りがあり生成することが非常に困難なものがSound Moneyとして選ばれ、そのようなお金をHard Moneyと呼ぶ。政府や中央銀行が発行する法定通貨は発行上限がなく、簡単に増刷することができるためEasy Moneyと呼ばれる。また、Easy Moneyは増刷が容易であることから、紙幣の購買力は時間の経過とともに下落し、やがてゼロになり人々が受け取りを拒否するようになる。

ビットコインの最大供給量は2100万BTCに設定されており、絶対に変更されない。地球上で唯一の希少性を持つ可能性を秘めた、人類史上初のデジタルなSound Moneyだ。

Sound Moneyとして最も長い歴史を持つ「金」は世界共通のお金だ。政府や中央銀行によって供給量が増やされることはなく、市場によって価格が決められている。

金の価値が認められている証拠として、世界各国の中央銀行は必ず一定量の金を保有している。世界の中央銀行で最も金の保有量が多い国はアメリカで、連保準備制度理事会(FRB)は8133トンの金を保有している。日銀も世界で8番目に多い756トンを保有している。

Forbes.com

ここで注目すべきは、2008年に起きた世界同時金融危機以降、世界の中央銀行が金の保有量を増やしていることだ。これは、自国の経済が停滞した際に通貨価値が著しく下落することを防ぐ狙いがあるものと考えられる。

ビットコインがデジタルゴールドと表現されることがあるのは、金のSound Moneyの概念の系譜を受け継いでいるからだ。ビットコインは金と同様に、特定の権力者によって供給量が増えることはない。さらに新規に発行されるビットコインを取得するにはコストをかけてマイニングを行う必要がある。

そのため、ビットコインはSound Moneyとなり得るのだ。ビットコインの総供給量は2100万BTCで変わることはなく、100年先の未来であっても同じだ。ビットコインのイノベーションは、インフレーションが発生することがないという金融政策の部分にあると言えるだろう。

通貨の価値はその国の繁栄と密接な関係を持つ

人類の歴史において、通貨の発行権は権力の象徴であり、その通貨の価値は国力を示している。通貨は人を動かす力を持っているため、時の権力者達は必ず通貨の発行権を握っている。

権力者は供給量をコントロールできないSound Moneyを嫌い、供給量をコントロールできるEasy Moneyを好む。権力者にとって通貨の発行はビジネスであり、必要な時に刷ることができるお金の方が都合が良い。

しかし、Easy Moneyは強欲な権力者達によって供給量が増加し、時間の経過と共に価値が毀損していく運命にある。通貨の価値の低下は市民が保有する紙幣の購買力を奪い、紙幣の増刷により利益を得る権益層へと富の移行が行われる。

人間の社会は、通貨の供給量をコントロールすることができると縁故資本主義に陥りやすい。通貨の使い道が官僚的に決められ、市場を無視した事業が行われる結果、資源を効率的に使うことができない非効率な社会が生まれる。

西暦300年代、ローマ帝国は西側のローマと東側のコンスタンティノープルの2つの首都に分かれそれぞれ統治を行っていた。西ローマ帝国では金、銀、銅通貨の供給量が適時にコントロールされるEasy Moneyが流通していた。東ローマ帝国では、金、銀の供給量や純度が一定に保たれているSound Moneyが流通していた。

この2つの帝国は滅亡と繁栄という真逆の道を辿ることになる。

西ローマ帝国と東ローマ帝国の繁栄と滅亡を分けた要因のひとつが、通貨の供給量をコントロールをしたか、しなかったかという金融政策の違いだった。西ローマ帝国では通貨に使われる金属の割合を低下させるDebasement(価値低下)が頻繁に行われており、純度を引き下げることで通貨の供給量を増やしていた。

西ローマ帝国は395年の建国から約100年ほどで滅亡しているのに対し、東ローマ帝国は330年の建国から約1100年の繁栄を遂げている。東ローマ帝国が滅亡した際には、西ローマ帝国同様に通貨のDebasementが行われ、Easy Moneyが流通していた。

通貨の供給量が一定で価値が保たれていることが権力の一極集中を防ぎ、より自由な市場を作り出し、その国の経済を効率化させ繁栄をもたらすのだ。

供給量が急激に増えないモノがSound Moneyとなり得る

供給量が増やされることがないモノがSound Moneyの性質を持っていることを示す例がヤップ島の石貨「ライ」だ。

ライは中央に穴が空いている円形の石で、大きなものになると直径3メートルにもなる。この石貨は元々ヤップ島に存在するものではなく、パラオからイカダに乗せて運ばれていた。大きいものほど価値が高かったが、運搬の際、運び手に死人を出したライにはさらに付加価値が付けられていた。すなわち、供給が困難なライほど高い値段で取引されていた。

ライは供給量が限られていたことから、ヤップ島では価値を保存する機能を持っていた。しかし1800年代後半にデービッド・ディーン・オキーフという名のアイルランド人実業家がヤップ島にやってきたことがきっかけとなり、ライの価値は減少していった。

ヤップ島でライが通貨として使われていることを知ったオキーフは、石を削るための機材をパラオに持ち込みライの製造を始めるようになった。オキーフは製造したライをコプラなどのヤップ島の生産物と交換することで財を成した。

オキーフが持ち込んだ機材によりライの製造がより簡単になり供給量が増えた結果、その価値は徐々に下落し通貨として使われることがなくなった。

通貨の供給量が限られていたライはSound Moneyとして価値を保存する機能をもっていたが、供給量が増えるようになったことでSound Moneyとしての機能を失う結末を迎える。

貨幣の歴史を振り返ると、ローマ帝国とヤップ島で流通していた通貨だけでなく、人が価値を見出すモノは、時の権力者や管理者により必ず供給量が増やされている。そして価値を保存する機能を失い、お金としての価値をも失っていく。

量的緩和政策というDebasement

現在わたしたちが利用している法定通貨も例外ではない。日々供給量が増やされ、Debasementが行われ続けている。

連邦準備制度理事会(FRB)のバランスシート

日本銀行のバランスシート

欧州中央銀行(ECB)のバランスシート

2007〜2008年に起こった世界的な金融危機以降、世界中の中央銀行は量的緩和政策を行ってきた。紙幣を刷り、国債を購入し、金融機関や金融システム上潰せない企業が抱える不良債権の買い取りプログラムを行ってきた。量的緩和政策とは通貨の購買力が低下するDebasementであり、法定通貨がEasy Moneyである証拠だ。

それぞれの中央銀行は紙幣を刷って金融資産を購入したため、バランスシートが2008年から約4〜5倍に膨れ上がっている。

Debasementは社会を不安定にさせる危険性がある

量的緩和は法定通貨の購買力を低下させるだけでなく、資産の多くを現金で保有する人々の資産価値を低下させ、資産家が保有する資産価値を上昇させる。つまり、所得格差が拡大し社会が不安定になるのだ。

中央銀行の量的緩和により最も利益を得るのは、新規発行の紙幣をはじめに受け取る政府、金融機関、資産家であり、最後にその紙幣を受け取る人は物価の上昇により損失を被る。中央銀行は紙幣を刷り、金融資産価格を上昇させようとするため、金融資産を保有している人が最もその利益を享受することとなる。

アメリカのヘッジファンド、Bridgewater Associatesの創設者であるレイ・ダリオ氏は「低金利下の量的緩和による資産価格の上昇は、所得格差を拡大させ、富裕層と貧困層の間に溝を作り衝突を生み出す」と語っている。

さらにこの衝突がポピュリズムやナショナリズムに繋がり、強い思想を持つリーダーが生まれ国と国の衝突にまで発展する可能性を指摘している。

Principles For Navigating
BIG DEBT CRISES

アメリカの短期金利がほぼゼロの状態で量的緩和が行われたのは1932年と2009年の2度だ。ダリオ氏は、現在の状況が第二次世界大戦前の状況に似ていると話す。

Principles For Navigating
BIG DEBTCRISES

上記のチャートは、上位0.1%と下位90%の人が保有する富の占有率が近づくことでポピュリズムが生まれることを示唆している。

その事実を裏付けるように、アメリカでは自国第一政策を掲げるトランプ大統領が誕生したことで中国との貿易戦争を通じ政治的な対立が表面化し、国際的な緊張感を高めている。

世界の中央銀行は、1971年までSound Moneyを金融政策の一部に組み込んでいた。それが金本位制だ。しかし1971年にニクソン大統領により金本位制は完全に廃止され、米ドルは供給量に制限がないEasy Moneyとなった。

金というSound Moneyが中央銀行の金融政策から引き離された1971年以降、FRBや日銀は金利を引き下げ続け、結果として政府の債務拡大に手を貸し続けてきた。そして、現在は政府が発行する国債を買い取る大規模な量的緩和政策を実行している。

これは紙幣の供給量に制限がなく裏付けも必要としないEasy Moneyだからこそ可能な政策であり、俗に「Print money out of thin air(何もない空中からお金を刷る)」と表現される。

米国政府債務残高対GDP比

日本政府債務残高対GDP比

1971年以降、世界中の政府債務残高対GDP比は膨らみ続けており、政府の財政政策を通じた経済への影響は増すばかりで、市場の計画経済化が進み自由市場は失われつつある。このまま政府債務が膨らみ続ければ、中央銀行は政府のために紙幣を刷り続ける。その結果、インフレーションが発生し紙幣はやがて価値を失う。

市場競争原理により選ばれるのが「Sound Money」

Sound Moneyは市場の選択によって選ばれるモノで、供給量の増減が限定的でかつ予測可能であるため価値の保存機能がある。Sound Moneyに必要な要素は供給量に制限があることと、その生成が非常に困難であるという希少性だ。

オーストリア経済学派を代表する経済学者のフレドリック・ハイエクは、『貨幣発行自由化論』の中で通貨は市場競争の結果から生まれるべきだと考えている。そして、政府や中央銀行が貨幣の発行を独占した状態で行う財政政策や金融政策は、お金の価値を下げる結果になるだけだと主張している。

Easy Moneyである法定通貨はインフレーションにより価値が減少していくため、いずれ価値がゼロかマイナスになる。ジンバブエ、ベネズエラ、アルゼンチン、ギリシャなどの国では市民が通貨の価値が減少していることに気づき、通貨を金や外貨へ交換しようとするキャピタルフライトが起きた。

一度通貨にキャピタルフライトが発生すると大量に売られるため、さらに価値を下げる。売りが売りを呼び価値が下落するスパイラルが発生し、最悪の場合ハイパーインフレーションへと発展する。

ハイエクにも大きな影響を与えた経済学者のルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは、著書『The Theory of Money and Credit 』の中で、政府や中央銀行による紙幣の増刷が日常的に行われる背景には、人々のインフレーションへの理解不足が原因であると書き記している。

「人々はモノの値段が上昇している変化には気づくが、同時に紙幣の1単位あたりの購買力が減少していることには気付かない。人々が紙幣の価値が減少していることに気付き、紙幣を、不必要だがより富の保存価値があるものと交換しだす時に極度のインフレーションが発生する」
Mises.org

さらにDebasementの側面として、紙幣価値の減少が人々をMalinvestment(無駄な投資)へと駆り立てる。バブルが発生する裏には紙幣価値の減少が存在しており、最近の暗号通貨市場の多くもMalinvestmentに該当すると考えられる。紙幣の保有価値がマイナスであれば、人は無謀な投資を行うようになる。

紙幣価値が減少すると、下落リスクに対するヘッジから、予測リターンが名目上ゼロであっても投資するインセンティブが発生する。そのようなMalinvetmentは社会全体にとって何の利益も創出しない。

日本においても、円の保有価値はすでにゼロかマイナスの状態だ。預金金利はほぼゼロであるため、少しでも消費者物価指数(CPI)が上がれば名目金利と物価の上昇を加味した実質金利はマイナスとなり、保有しているだけで富を失う。

インフレーションは資産価格に最も反映されやすく、価値の保存機能が優れた金や株価の価格に影響を及ぼす。

金 年足チャート

金は1999年の845円から現在の4490円にまで上昇しており、インフレ率は446%だ。

日経平均株価 年足チャート

日経平均株価は2002年の8200円から現在の20160円にまで上昇しており、インフレ率は146%だ。

チャートからもわかるように、日本ではここ最近の約20年間、金が日経平均株価より優れた価値の保存ツールだった。また、金は安定的に上昇しており日経平均よりボラティリティも少なく安全であったことがわかる。

人々は通貨安インフレーションへの対抗策として金や銀を保有していた歴史があり、特に金は地球上で最も優れたSound Moneyとして長い間認識されてきた。これまで供給量が突然増えることがなかったため、価値の保存手段として市場に選ばれてきたのだ。

その金というSound Moneyを進化させるべく誕生したのが、正体不明のNakamoto Satoshiにより考案されたビットコインだ。

金より優れたSound Moneyであるビットコイン

価値の保存機能を有するSound Moneyとして市場で選ばれるには、最大供給量が一定であり、供給量が予測可能であるモノが望ましい。ビットコインはこの特徴をプログラミングにより人工的に作り上げることに成功した。

ビットコインは10分に一度新たに供給され、2100万BTCになるまで供給される。また、供給量は約4年に一度半分になる「半減期」が設定されている。
ビットコインの総供給量と年次供給率

ビットコインの供給スケジュール

2019年現在は約10分ごとに12.5BTCが市場へ供給されるが、2032年には供給量が0.78BTCとなり、その時点で総供給量の99%が市場へ供給されるようプログラミングされている。

ビットコインと金の決定的な違いは、ビットコインの総供給量には絶対的な最大値が存在する点だ。金の総供給量は地球に埋まっている以上に増えることはないが、正確な量を把握することはできない。1800年代半ばに起きたゴールドラッシュでは金の供給量が急増した経緯もあり、供給量の増減が完全に予測できる点でビットコインの方が安定していると言える。

金の供給量は、技術の進歩とともに増え続けている。

金の年次供給量

金の供給量が毎年増えているのに対し、ビットコインは技術の進歩によって供給量が大きく増加することがない。ビットコインにはハッシュレートの量に合わせてマイニング・ディフィカルティ(採掘難易度)が約2週間ごとに変更される仕様になっており、必ず約10分毎にマイニングされるようプログラミングされている。

総供給量が決まっていて、かつその増加量も予測可能なビットコインはより優れた価値の保存機能を備えたSound Moneyだ。

ビットコインは多くの点で金より優れたお金であるが、その中でも最も優れた2つの機能を挙げてみよう。

1つ目は、通信環境さえあれば誰でもどの国からでも利用することができ、取引の取り消しや差し止めができない検閲耐性がある点だ。取引は一度ブロックチェーンに記録されると巻き戻すことが非常に困難な仕様になっている。またウォレットは誰でもダウンロードすることができ、身分証明証を持たない発展途上国の人でもビットコインを利用することができる。

2つ目は、秘密鍵を自身で保有することでビットコインを第三者から完全に守ることができる点だ。秘密鍵を暗記し第三者機関に預けなければ、ビットコインを動かすことができるのはユーザー自身だけであり、カウンターパーティーリスクがない。

金は物理的に安全に保管する必要があるが、ビットコインは持ち運ぶ必要がなく、秘密鍵を暗記している自身の脳が無事であれば奪うことはできない。

1933年、アメリカでは当時の大統領であるフランクリン・ルーズベルトが、金の保有や売買を禁止する大統領例を発令し、民間人が保有していた金は政府によって没収されている。1930年代のアメリカは大恐慌の真っ只中にあり、国家の危機を脱出する名目から、私有所有権という最も基本的な人権が侵害され、市民の資産が強制的に奪い取られた。政府による強制的な資産の没収が行われたとしても、秘密鍵を安全に保管していればユーザーのビットコインが奪われることはない。

お金にとって重要なのは紙幣に書かれた数字ではなく、何がどれだけ買えるかという購買力だ。供給量が増え続ける通貨は単位あたりの購買力が減少し、人々は必ずより価値の保存機能が優れたSound Moneyを保有するようになる。

金がビットコインより優れている点を挙げるとすれば、Sound Moneyとしての歴史の長さに裏付けられた信用力だ。金は1000年以上前からお金として利用されてきたが、ビットコインは今年の1月3日に誕生からやっと10年が経過した程度だ。時価総額でみても、金が約7.9兆ドルなのに対し、ビットコインはわずか約700億ドルで約100分の1だ。

人々がビットコインをお金として認識するにはあまりにも歴史が短く、価値を保管することができるモノとして認知するまでまだ少し時間がかかる。しかし、時間の経過とともに市場は供給量が増えるEasy Moneyより供給量が限られたSound Moneyを選ぶようになる。

ビットコインは送金速度が遅い点が通貨として利用できない最大の理由として考えられているが、それはセキュリティを重視し供給量を一定に保つという価値の保存機能を持ったSound Moneyを作り上げることを優先しているからだ。今後も政府や中央銀行が紙幣を刷り価値を下げ続ける限り、価値の保存ツールとしてのビットコインへの需要が廃れることはないだろう。


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