2018.02.06 (Tue) column

PoW vs PoS論争の概要

Written by indiv_0110

Indiv(@indiv_0110)は、個人のエンパワーメントの文脈でBitcoinやEthereumに興味を持ち、それらの仕組みを調査している。ブログでは主にEthereumに関する情報を共有する。


暗号通貨では現在PoW(プルーフオブワーク)とPoS(プルーフオブステイク)という2つのコンセンサスアルゴリズムが主に使われている。PoWのWは投入された計算量のことで、マイナーがブロック採掘競争に勝ち、ブロック報酬を獲得できる可能性は、長期的にはマイナー自身が所有する計算量によって決定される。PoSのSはネットワークに預託したトークンの総量のことで、バリデーターがブロック生成権を手にする確率は、マイナー自身がステイクとして保有するトークンの量に依存する。

PoWの代表格はビットコインだ。ビットコインからフォークしたビットコインキャッシュやライトコイン、モナコインもPoWを採用している。イーサリアムは現在PoWを採用しているが、次回のプロトコルアップグレードにてPoW/PoSのハイブリッド型に移行する予定だ。NEMはPoI(プルーフオブインポータンス)というPoSに類似したシステムを採用している。

PoW vs PoSの論争は定期的に行われているが、ライトコインの開発者Hugo NguyenがPoS版イーサリアム「Casper」を批判したことによって、この議論が再燃した。

本記事ではPoWとPoSの概要を押さえた上で、先月にCasper批判の内容を紹介する。

本記事での前提

本記事ではHugo Nguyen氏のツイートに基づいて情報の整理を行うため、特に明記しない場合、PoSはイーサリアムのPoS「Casper」を指し、PoWと表記する際は、ビットコインのPoWを指すこととする。

PoWに関して、ビットコインとライトコインとで同じPoWを採用しているが、そのアルゴリズムはそれぞれ異なる。PoSも同様に様々な設計があり、利点と欠点がある。例えば、純粋なPoSの場合、プレマインというプロジェクトローンチ時に予め一定数もしくは全てのトークンが発行され、その結果、プレマイントークンの所有者に特権的な地位が与えられ得るという問題があるが、本記事ではプレマインの問題は扱わない。何故ならイーサリアムはPoWからスタートし、PoSへの移行を予定しているからである。

PoWとPoSのおさらい

マイナー

PoWにおけるマイナーは、プロトコルの外側に位置する存在である。故にビットコインのプロトコルとビットコインのマイナーは本質的に別物である。ビットコインキャッシュの登場以後、しばらくビットコインのネットワークが不安定になったのは、ビットコインのマイナーが自身のハッシュパワーをビットコインキャッシュに向けたからである。

マイナーがどのコインを採掘するかは自由である。PoWは、プロトコルによって機能するネットワークと、計算量を投入し続ける外側のマイナーの二本柱によって稼働しているということだ。プロトコルによってマイナーの計算量を調整したり、あるいは奪ったりすることはできない。マイナーはプロトコルのコントロール下にはない。プロトコルにできるのは、マイナーが投入した計算量に応じて採掘難易度を調整することである。

マイナーがマイニングを維持するために必要なのは、ASICやGPUのようなマイニング機器と、それらの機器を動かすための電気である。機器や電気代というコストを支払う必要があるため、マイナーにはマイニング報酬であるBTCを換金する理由がある。故に一定の売り圧と一定の流通促進が見込まれる。ブロック報酬の法定通貨建て価格は新規発行BTCの量(現在は12.5BTC)とBTCの市場価格によって決定され、ブロック報酬を得るために費やされたコストは、マイニング機器の購入代金と機器を動かすための電気代や人件費によって決定される。現在、マイナーの多くが中国や北欧に拠点を持つのは、電気代が他の地域に比べて安いためである。

PoWにおけるブロック報酬の特徴は、マイニングによる収益とマイニングによるコストの両方が変化するという点である。収益性の高い事業には、新規参入者が増える。新規参入者が増えると採掘難易度が上昇し、ブロック報酬を得るために必要な計算量が増える。必要な計算量はコストに反映され、そのコストはブロック報酬の法定通貨建て価格に近づいていく。BTCの市場価格によっては、採算が取れないマイナーが出てくることもあるのがPoWの特徴だ。

バリデーター

一方でバリデーターはプロトコルの内側に位置する存在である。バリデーターに必要なのは保有するトークンをステイクすることである。ステイクするトークンはプロトコルに基いて発行されたものであり、ステイク先はプロトコル支配下のネットワークである。故にプロトコルはバリデーターに対して直接的に影響を与えることが可能である。

例えばイーサリアムの場合、ステイクにはETHが使われる。ステイクの多寡によってブロック報酬の獲得確率が決定されるため、ステイクが多ければ多いほどバリデーターの収益は上がっていく。PoWには機器と電気代というコストが存在したものの、PoSには機器や電気代は必要ない。

PoSは、ネットワークにステイクを行い、自身の保有するトークンをリスクに晒しながらブロック生成を行うことで報酬を得る。この文脈におけるリスクとは、プロトコルによって有害と判断された行動を行ったバリデーターのステイクが没収されるリスクである。この仕組みはイーサリアムでは「Slasher」と呼ばれている機能である。

バリデーターにはブロック報酬として獲得したETHを溜め込むインセンティブが存在する。獲得したETHをステイクすれば、ブロック報酬の獲得確率が高まるからである。故に、ETHの流通が阻害される懸念がある。逆にETH価格が急激に上がった場合、ステイクを解除して市場に売り出される量がセキュリティに影響を与えるほどに多くなる可能性もあるが、Casperのホワイトペーパーによれば、イーサリアムの場合、ステイクを解除するために一定の期間を設定する方針のようだ。

またPoSにはPoWのようなコスト構造が存在しないため、収益とコストが変動することによる収益とコストの相殺が発生しない。これはたとえネットワーク全体のステイク量が増え、ブロック報酬が逓減していったとしても、期待されるブロック報酬がゼロ以下にはならないということである。

PoWとPoSの差異と共通点

この時点でPoWとPoSにはその思想において2つの大きな違いがあることが分かる。

1点目は、規模の経済と不公平感に対する考え方である。PoWの場合、大規模なマイナーが規模の経済によって比較的有利な立場に立つことができる。規模の経済とは、100億円のコストを掛けられるマイナーが、1億円のコストを掛けられるマイナーの100倍以上の収益をあげられることである。これは大規模生産によって、コスト削減が見込めたり、ネットワークの地理的な要因によって有利にマイニングを行えたりすることによるものだ。PoSの場合、規模の経済は発生しないものの、バリデーターの収益がバリデーター間の競争によってゼロ以下にはならない点で公平性の問題がある。

2点目は、コストとリスクの設計である。ネットワークに対する攻撃について考えてみよう。PoWにおいてネットワークを攻撃する場合、マイナーは自身のハッシュパワーを用いてネットワークの改竄を試みる。つまり攻撃する際に、マイニング機器と電気代等のコストを前払いする必要がある。一方でイーサリアムのPoS「Casper」は、懲罰的アルゴリズム「Slasher」が重要な役割を果たす。

PoSにおいて、バリデーターは自身のETHをステイクする必要があり、そのステイクはプロトコルのコントロール下に置かれる。そのため、バリデーターの不信な挙動を検知したプロトコルによって、没収される可能性がある。PoWは自身のハッシュパワーを"正当に"使っていれば得られたであろうブロック報酬を手放すことで、攻撃を実行することができる。つまり攻撃者はこの機会コストを支払うことになる。PoSは没収されるかもしれないステイクをリスクに晒すことで攻撃することができる。

共通点はいずれも富の偏在が発生しやすい点とトークンの市場価格がセキュリティに大きな影響を与える点だ。偏在の発生の仕方に差異はあるものの、両方とも富の偏在が発生しやすくなっている。PoWの場合は、規模の経済によってマイナーの寡占が起こりやすい。イーサリアムのCasperはそもそも寡占市場を念頭に置いて設計されている。PoWのハッシュパワーは価格を追う形で推移し、PoSのセキュリティはステイクに使われるトークンの市場価格と数量に依存する。

後半では、Hugo Nguyen氏の指摘を基により具体的な内容に迫る。


Hugo Nguyen [LTC] on Twitter: "1/ Here’s why I think Ethereum & Proof-of-Stake are bad ideas."
Slasher: A Punitive Proof-of-Stake Algorithm - Ethereum Blog
The History of Casper — Chapter 4 – Vlad Zamfir – Medium


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