2016.01.13 (Wed) column

Rootstockはビットコインを救って、Ethereumを潰すのか?

Written by 東 晃慈

最近Sidechain(サイドチェーン)という言葉を頻繁にビットコイン業界内では耳にするようになりました。

通常、サイドチェーンは、ビットコインのブロックチェーンとは独立したブロックチェーンで、サイドチェーン上のコインはビットコインとの互換性があり(peg)あり、ビットコインのメインチェーンとサイドチェーン上で双方向に価値(コイン)の行き来が可能になっています。

2016年はこのようなサイドチェーン技術が具現化、進化していくことが考えられます。サイドチェーン技術を活用することで、ビットコインの有用性が向上し、スケーラビリティ、匿名性の向上など、ビットコインやブロックチェーンのイノベーションのスピードを早める効果があると期待され、サイドチェーンは2016年後半の大きなテーマになると思います。

その中でも今、特に注目されているプロジェクトがRootstockです。Rootstockはビットコインとつながったサイドチェーンであり、ビットコインのセキュリティ面などの強みを生かしながらEthereumのような複雑なコントラクトの作成(スマートコントラクト)をサイドチェーン上で可能にしようとするプロジェクトです。

国内ではまだあまり知名度が高くないかもしれませんが、スマートコントラクトという用語の生みの親でもあるNick Szaboも、

"Best of Bitcoin (currency and settlement system) + best of Ethereum (smart contract programming environment)"

(和訳)「ビットコインの最大の強み(通貨とセトルメントシステム)+Ethereumの最大の強み(スマートコントラクトプログラム環境)」

という発言をTwitter上でしており、他にもRootstockに大きな期待を寄せる人たちは少なからずいます。

なぜRootstockが必要なのか?

Rootstockの仕組みについて説明する前に、そもそもなぜRootstockのようなプロジェクトが出てきたのかという背景ですが、ビットコインには現在以下のような課題があります。

・スケーラビリティ

ブロックサイズに関する議論など、ビットコインのスケーラビリティの問題はすでに耳にしたことがある人が多いと思いますが、現在のビットコインの設計では秒間最大7トランザクションほどしか対応することができず、現状のままでは今後ビットコインの利用者が増えていくにつれて、決済の遅延、コストの増加など重大な問題が発生することが懸念されています。

ブロックサイズの引き上げの他に、Segregated Witnessの採用、Lightning Networkの利用など、ビットコインをスケールさせるために色々な改善、議論がなされていますが、スケーラビリティは現在ビットコインが抱える最も大きな課題の一つです。

・コスト

スケーラビリティの問題にも関連しますが、利用者が増え、さらにビットコインの市場価格が上昇すると共に、1回の送金にかかるマイナーへのビットコイン手数料は上昇していきます。現在3円~6円程度の手数料が一般的だと思いますが、仮にユーザーと今年中に価格が倍増したと想定すると、手数料も10~20円以上になる可能性も大いにあり、ビットコインの需要上昇は、コスト上昇というジレンマも同時に生み出します。

・スピード

ビットコインのブロックチェーンのトランザクション承認には通常最低でも10分かかります。これは、現在の国際送金にかかるスピード(数日)と比較すれば早いとも捉えられますが、既存の支払い手段と比較して致命的に遅いとも言えます。例えば、モノやサービスの支払い手段としてビットコインを使う時に、金額によっては2重支払いのリスクなどを回避するため10分以上待たなくてはいけない状況も想定され、ビットコインを一般的な支払い手段として普及させるという前提に立つと、承認スピードはネックになります。

・拡張性

ブロックチェーンのキラーアプリとしてスマートコントラクトに挙げる人もも多いですし、去年リリースされたスマートコントラクトプラットフォームEthereumを利用して様々なトラストレスアプリケーション、IoTなどへの応用などが出来るのではないかと期待されます。

一方、ビットコインのブロックチェーンではEthereumのような複雑なコントラクトを作成することは出来ず、それがビットコインの致命的な欠陥だという指摘もあります。今後ブロックチェーンが送金以外の様々な分野に応用されていく重要な技術になると考えた時に、ビットコインは拡張性がないとか、柔軟性に欠けるといった点がビットコインの拡大の阻害要因になるかもしれません。

Rootstockはビットコインが抱えるスケーラビリティ、コスト、スピード、拡張性などの問題を解決し、ビットコイン、またビットコインのブロックチェーンをさらに有用な仕組みにしようとしているプロジェクトとも言えます。後述しますが、中にはRootstockが完成すれば、Ethereumの存在価値はなくなるという人もいるくらいです。

Rootstockの特徴と強み

Rootstockを独立したブロックチェーンとして捉えた時に、Rootstockはビットコインと比べ以下のような特徴や強みを持っています。

・スケーラビリティー

ビットコインの最大7トランザクション/秒に対して、Rootstockは最初のリリース時で300トランザクション/秒をさばけるようになるとのことです。

・コスト

現在ビットコインの通常のトランザクション手数料は5円~10円ほどですが、Rootstock上のトランザクションは1円程度に収まると想定されています。

・スピード

ビットコインの10分間に対して、Rootstock上でのConfirmationは通常10~20秒で承認が完了します。DECOR+とFastBlock5プロトコルという仕組みを採用し、マイニングの中央集権化を防ぎつつ、より素早いConfirmationを実現できるとしています。

・スマートコントラクト

RootstockはRSK Virtual Machine(RVM)を採用し、Rootstock上でビットコインでは直接は不可能なチューリング完全なスマートコントラクトを実行することができます。さらに、EthereumのEVMとも適合性があり、Ethereum上のコントラクトをRootstockに移行することも簡単に可能だということです。

Ethereumの登場で既存企業なども含め特に注目されるようになったスマートコントラクトの概念ですが、Rootstockを使えばビットコインのブロックチェーンを利用してEthereumのようなスマートコントラクトの作成と実行が可能になります。

スマートコントラクトの具体的なユースケースとして、

  • 暗号トークン作成
  • 分散P2P取引所
  • 透明性の高いトラストレス投票システム
  • マイクロレンディング(少額貸付)
  • ブロックチェーン上でのアイデンティティ管理
  • スマートIoT(スマートコントラクトで自律的に動くIoT)

などが考えられます。上記はあくまでいくつかの例であり、他にも様々なトラストレスアプリケーション、契約をRVM上で簡単に作成することができます。

このように、Rootstockはビットコインの課題、弱点となっている部分を補完しつつ、ビットコインのブロックチェーンを利用したスマートコントラクトプラットフォームを実現し、ビットコインの可能性を広げます。

Rootstockの仕組み

さて、Rootstockが必要な背景、Rootstockの特徴・強みなどを説明しましたが、Rootstockがどのようにビットコインのブロックチェーンを利用し、高いセキュリティを保ちながらスマートコントラクトを実現しようとしているか、仕組みの概要を説明します。

Rootstockの仕組みとして、Two-way pegged federated sidechainとマージマイニングが最も重要なポイントです。

・Two-way pegged federated sidechain

まず、Two-way pegged federated sidechainですが、前述した通りサイドチェーンの特徴はビットコインのブロックチェーンとサイドチェーン間でセキュアに双方向にコインの変換が出来るということです。

Rootstockの場合、ビットコインをRootstock上のコイン「Rootcoin」に変換するため、ビットコインを特殊なマルチシグネチャアドレスに送ることで、そこにビットコインを使用不能な形で閉じ込め、閉じ込めているビットコインと同じだけの価値がRootstockのブロックチェーン上の自分のアドレスに解放されます。RootcoinはRootstock上の送金に使われるだけでなく、Rootstock上でスマートコントラクトを実行する時に消費される燃料の役割を果たします。

ビットコインとRootcoinは1対1のレートで変換されるため、例えば1btcをマルチシグアドレスにロックインした場合、1RootcoinがRootstockのブロックチェーン(サイドチェーン)上の自分のアドレス上に変換されます。ビットコインのロックインなしでRootcoinを作り出すことは不可能なので、開発者権限でRootcoinを生成したりすることは出来ません。(つまり理論上Rootcoinの最大供給量はビットコインと同じく2100万Rootcoinです)

また、逆のプロセスを踏むことでRootcoinをビットコインに戻すことも可能です。このように、ビットコインのブロックチェーンとサイドチェーン上で価値(コイン)を双方向に自由に行き来できることをTwo-way peg sidechainと呼びます。

特別なマルチシグネチャアドレスにビットコインを閉じ込めるという説明をしましたが、Rootstockの場合はローンチ当初はマルチシグの鍵の管理者はRootstock開発者、その他業界内で信頼されている開発者、取引所、また大学などの連合体(Federation)であり、閉じ込められているビットコインの盗難などのリスクを減らしつつ、後述するマージマイニングのセキュリティチェックなどもこのFederationが重要な機能を果たします。

・マージマイニング

Rootstockの仕組みでTwo-way pegに加えもう1つ重要なのが、ビットコインとのマージマイニングです。

マージマイニングは簡単に言うと、メインチェーン(ビットコインのブロックチェーン)のマイナーに、同時にサイドチェーン上のトランザクションの承認作業もしてもらうことです。つまり、Rootstockのブロックチェーン上のマイニングは、ビットコインのマイナーが並行して行い、より多くのビットコインマイナーがRootstockに参加するにつれ、Rootstockのセキュリティは最大でビットコインのブロックチェーンと同等レベルまで向上していくと考えられます。

もちろんマージマイニングはボランティアではなく、マイナーには経済的インセンティブが存在し、参加ビットコインマイナーは通常通りのビットコインブロック報酬に加え、Rootcoinの手数料報酬を受け取ることが可能になります。ビットコインマイナーが収益最大化のため、副収入として、Rootstockのマイニングをするというイメージに近いかもしれません。

また、様々な理由で、もしマージマイニングの参加マイナーが不足し、マージマイニングから十分なセキュリティを生み出せていない状況も想定されます。その場合は、メインチェーンのマイナーからの51%攻撃などに対する耐性を強めるため、Rootstock開発者を含むサイドチェーンを管理する連合機関(Federation)がチェックポイントを設けるような仕組みを採用するとのことです。

上記のような仕組みを採用することで、ビットコインマイナーにRootstockとのマージマイニングをするインセンティブを提供し、スマートコントラクトプラットフォームとしてビットコインの強力なセキュリティをバックボーンとして有効活用するだけでなく、ビットコインマイニングの収益改善やビットコインネットワーク自体へもポジティブな波及効果があるとRootstock開発陣は主張しています。

似たようなスマートコントラクトプラットフォームとして、Ethereum、CounterpartyとRootstockを簡単に比較すると、

・Ethereumとの比較

Ethereumと比較したRootstockの最大の強みは、ビットコインのブロックチェーンのセキュリティや安定性・実績を利用したスマートコントラクトプラットフォームだということ。

理論上はRootstockもEthereumも同様のスマートコントラクトを実行できるようだが、Ethereumがブロックチェーンのセキュリティと安定性が批判されるのに対し、Rootstockの仕組みが上手く機能すれば、Ethereumより高次なセキュリティと同様の柔軟性や拡張性を実現できると考えられる。

・Counterpartyとの比較

Rootstock、Counterparty共にビットコインのブロックチェーンを利用したスマートコントラクトプラットフォームと言えるが、最も大きな違いは、Rootstockは2-way pegのサイドチェーンであり、ビットコインとRootstock間のコインの行き来が可能なのに対し、CounterpartyはProof of Burnという1-way pegの仕組みを採用したため、XCPというCounterpartyのネイティブ通貨とビットコインのブロックチェーン上での行き来は出来ない。

また、CounterpartyがEmbedded consensusという仕組みを採用し、ビットコインのコストやスピードの問題をそのまま引き継いでいるのに対し、Rootstockは上記で説明した通り理論上、より早くより安いトランザクションを可能にしている。

Rootstockに関する懸念点

ここまでRootstockに関していいことを主に説明しましたが、Rootstockに関する懸念、批判はあるのでしょうか?

一番大きい懸念はマージマイニングが果たして本当に機能するのか、ということでしょう。

まず、ビットコインマイナーに果たして適切なインセンティブを提供できるか。マージマイニングにかかる追加コストは基本的にはゼロだということですが、Namecoinなどマージマイニングを過去に採用したプロジェクトで、ビットコインマイニングの採算性を低下させる結果となり十分なマイナーが集まらず、失敗したケースもあります。

また、マージマイニングのモデルでは、メインチェーンのマイナーがサイドチェーンに対して大きな支配力を持っており、メインチェーンのマイナーが結託することで、サイドチェーンを攻撃し、閉じ込められているビットコインを勝手に動かしたりすることが比較的簡単に出来るようになってしまうという技術的な観点からの批判もあります。

最悪のケース、ビットコインのPoWマイニングの強力なセキュリティを利用するはずが、巨大マイニングプールなどの攻撃対象になり、結局Ethereumなどよりセキュリティの低いスマートコントラクトプラットフォームになってしまう可能性もゼロではありません。

Rootstockの場合は、上記のような状況を回避するため、開発陣を含むRootstockの連合管理主体(Federation)がチェックポイントを用意することで、Rootstockに対する51%攻撃や、2重支払いを防ぐような仕組みが採用されています。確かに、チェックポイントを用意することで悪意のあるビットコインマイナーからの攻撃を防ぐことは可能になるかもしれませんが、代償としてビットコインを管理して、チェックポイントを設定するFederationに対する信頼が必要となり、結局別の問題や脆弱性を生み出す形になってしまいます。

また、Rootstockは、ビットコインプロトコルのSoft forkなどを通して最終的には現在信頼が必要となっているFederationの部分もトラストレスな形に昇華し、セキュアなマージマイニングが可能になると主張していますが、トラストレスTwo-way pegサイドチェーン自体がそもそも不可能だという指摘も少なからずあります。いずれにせよ、Rootstock開発陣などのFederationに対する信頼などがしばらくは必須となっており、これはRootstock、そしてサイドチェーン技術全般の当面の大きな課題と言えます。

まとめ

Rootstockはビットコインのサイドチェーンとして、ビットコインのPoWマイニングから得られるセキュリティを利用しつつ、Ethereumのようなスマートコントラクトを実行できるプラットフォームを実現しようとしています。

同時に、ビットコインが抱えるコスト、スピード、スケーラビリティーの問題などもRootstockを適切に利用することで解決、もしくは軽減できるとも主張されています。

ビットコインの強み(セキュリティ)と、Ethereumの強み(スマートコントラクト)を掛け合わせたような、非常にポテンシャルのあるプロジェクトになる可能性もありますが、同時に現時点では完全なトラストレスな設計ではないこと、またサイドチェーンとのマージマイニングが果たしてセキュアに機能するかどうか、まだ実証されていないという懸念なども存在します。

いずれにせよ、2016年中には現在の「ブロックチェーン技術」「Private chain」のような形で、サイドチェーンがバズワード化することが予想され、Rootstockはその中でも重要な役割を果たす可能性があります。開発者用の本格的なリリースは数か月先になるという見通しですが、Ethereumのようにリリースが先延ばしになり続けることがないように個人的に願っています。

もしかしたらRootstockはビットコインの様々な問題を解決し、同時にEthereumを潰す存在になるかもしれません。


参考

Rootstock公式ホームページ(ホワイトペーパーへのリンクあり)
http://www.rootstock.io/

開発者のQ&A
http://webonanza.com/2015/10/14/qa-with-rootstock-its-a-hybrid-merged-minedfederated-sidechain/

ビジネスロードマップなど
https://www.cryptocoinsnews.com/rootstock-merges-bitcoin-ethereum-help-world-bank-micro-lending/


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